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解答講師  株式会社 潜水技術センター 望月 徹
             



 Q1 レジャースポーツダイビング分野では今回の改正高圧則の影響はどの様に考えたらいいのでしょうか?


 A1>影響は限定的だと思います。
  今回の高圧則改正における主な点は、事業者の責務の明文化、作業計画の策定と記録の義務化、呼吸ガス分圧
  による制限、減圧浮上基準の策定方法の変更、酸素曝露量の管理です。

  これらはいずれも大きな変更であり,多くのダイバーにとっては初めて耳にする内容を含んでいます。

  特に減圧浮上に関する事項は以前と全く趣が変わりました。従来は減圧浮上の基準として標準減圧表が示されてい
  ましたが、改正によって標準減圧表は廃止され、新たな基準として減圧計算方法(以下減圧理論)が提示されました。

  また、空気潜水による潜水深度は水深40mに制限され、それを超える潜水においては混合ガスや酸素を使用する
  ことが新たに認められました。

  レジャースポーツダイビングは無減圧潜水が基本ですし、減圧表も業務用のものに比べ厳しいので、改正後の新
  基準にもそれほど影響を受けないと思います。

  また、今後は新基準を満たすものであればダイビングコンピュータの利用も可能です。40mを超えるような大深度
  潜水はレジャースポーツダイビングでは一般的ではありませんので、新たに設けられた混合ガスや酸素減圧に関す
  る規則もそれほど影響しないと思います。

  このような点から、高圧則改正による影響は限定的であると考えます。

  ただし、事業者の安全衛生管理に対する責務は強化されましたので、この点については十分な注意が必要です。

  労働安全衛生法や労働基準法は強制規則ですので、事業者に課せられた義務を労働者に委託、委任すること
  はできません。


  また、例え労働者の了解があったとしても規則の基準を下回るような行為は行うことができません。事業者に
  は、従来に増して法律の基準を十分満たすような措置を施すことが求められます。




 Q2 改正高圧則の潜水作業とは、レジャースポーツダイビングにも適応されるのかまたどのような状況が想定され
     ますか?


 A2>レジャーダイビング関連の潜水業務は高圧則の規制対象となります。

  高圧則は「潜水業務」を対象としており、それは労働安全衛生法施行令において以下のように定義されています。

  施行令第20条第9号:「潜水器を用い、かつ、空気圧縮機もしくは手押ポンプによる送気またはボンベからの給気を
  受けて水中において行う業務をいう」すなわち、業種や職種に関係なく、潜水器を用いて行われる潜水業務は全て
  高圧則の対象となります。

  これには水深に関する条項もありませんので、潜水器を使用する場合には、たとえ水深が1mであっても潜水業務
  として取り扱われることになります。




 Q3 作業労働者に対する安全衛生規則であるなら、今回の改正規則はレジャーダイビングにおけるゲストに適応さ
     れますか?


 A3>潜水業務に従事する「労働者」でなければ、規則の対象にはなりません。

  高圧則は労働安全衛生法に準ずるもので、対象は「労働者」となります。法規上の「労働者」は労働基準法第9条で
  以下のように定義されています。

  労働基準法第9条:「この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業または事務所(以下「事業」という。)に
  使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」

  また、実際に「労働者」に当たるかどうかの基準は、次のとおりとされています。

  「契約の形や名称にかかわらず、実態として民法623条の雇傭契約が締結されていると認められること。」

  例えば、口頭であったとして、賃金や就業時間等の約束がなされれば雇用契約と認められ、「労働者」として取り扱わ
  れる場合があります。

  労働者は業務遂行時に何らかの障害に侵される危険があります。潜水業務では、減圧障害や溺水、海洋生物による
  傷害等のリスクが考えられます。

  これら、労働による災害(労働災害)を防止(予防)するための法律が労働安全衛生法であり、高圧則もこの労働安全
  衛生法に準じています。

  労働災害が発生してしまったときの労働者の補償関係を定めた法律が労働基準法であり、その補償を保険でカバー
  する労災保険について定めた法律が労働者災害補償保険法となっています。




 Q4 個人事業者の場合、本改正規則の適応とその対応はどの様に考えたら良いでしょうか?


 A4>個人事業主であっても規則の適応対象となります。

  高圧則を含む労働安全衛生法は、そのほとんどが「事業者」を対象としています。すなわち、労働安全衛生法の
  主たる義務者は労働者ではなく「事業者」となります。
 
  したがって、個人事業者として潜水業務に従事する際には、「事業者」として法令規則を遵守しなければなりません。

  ただし、他から請負の形で業務を行う場合や、派遣されて業務に従事する場合には「労働者」として取り扱われる
  場合もあります。

  これは、請負契約の内容や業務上の地位権限等で異なるため、ケースバイケースで判断する必要があります。




 Q5 作業計画書の作成、記帳の義務と保管が義務付けられていますが、レジャースポーツダイビングにおいても
     雇用者と従業員との間で適応されますか?


 A5>適応されます。


  高圧則は、労働者を高気圧障害その他から保護するために定められた規則です。したがって、業種に関係なく
  潜水業務の実施に際しては、作業計画の立案やその記録を含め、高圧則の条項を遵守する義務が事業者に課せ
  られています。




 Q6 上記記帳の義務等は、ゲストダイバーとの関係においても適応されますか?その場合はどの様に対応していけ
     ばいいでしょうか?


 A6>労働者以外には適応されません。

  高圧則等の労働安全衛生法は、業務に従事する労働者の保護を目的としたもので、業務に従事しない場合には
  適応されません。

  しかしながら、安全に潜水を実施するためには、予め潜水計画を立案し、その結果を記録しておくことは
  レジャー潜水でも必要なことであると思います。

  インストラクターやガイドの業務に従事する場合、複数のレジャーダイバーを引率することになりますので、彼らの
  安全を確保するためにも、是非実施するべきと思います。

  高圧則や労働安全衛生法は、労働災害を予防するための「最低基準」を定めたものです。これに比べれば、
  レジャースポーツダイビングで一般に認められている基準の方が全般的に厳しいのではないかと思います。

  法律規則の遵守はもちろん欠かせませんが、これによってレジャースポーツダイビングの幅が大きく損なわれること
  はないと思います。



                                                               以上