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スノーケリングにおける ヒヤリ・ハット意識調査から見た事故分析



高野 修

筑波大学高度競技マネジメント研究室
東京海洋大学大学院








  【目 的】  

     近年、日本におけるスノーケル(シュノーケ ルと同義)を使用した活動の事故が増加傾向に ある。海上保安庁が発表している、
    平成20〜28 年のスノーケルを使用した事故の推移では、事 故者数に対する死亡率は、47%〜 67%となっ ており、
    スクーバ・ダイビング(以下、ダイビン グ)の事故者数および死亡率と比べても高いと 言える(図 1、図 2)。  

     また、海上保安庁では事故の主な原因として、 スノーケル内に入った海水を排出できず、誤飲 して溺水するなどの
    知識・技能不足や、実施中の活動に対する不注意、気象・海象の不注意等の自己の過失であること(図 3)、また単独行動時の
    死者・行方不明者の割合が多いこと、事故時に浮力体を着用していた者に比べ、非着用者 の死亡率は2倍以上であることを指摘
    している。  

     本調査では、事故に繋がる可能性のある問題 点を抽出し、事故防止策を検討するための基礎資料を得ることを目的とした。



  【調査・分析方法】  

     調査内容については、高野ら(2014)が実施し た、「SUCUBA DIVING における“ヒヤリ・ハット”に関する意識調査」を基に質問
    内容を指導者 4名で検討し、質問紙(調査票)を作成した。   

     調査は、平成29年4月8日〜23日にかけて実施 された、平成29年度日本体育協会公認スクーバ・ ダイビング指導者更新研修会
    ならびに、(一財) 日本海洋レジャー安全振興協会安全潜水管理者 更新研修会の参加者と、T大学の学生(2〜4年 生)の
    スノーケリング愛好者(以下、愛好者) 163 名とスノーケリング指導者(以下、指導者)117 名を対象として、スノーケリングにおける
    ヒヤ リ・ハットに関する質問紙調査を配布した。

     回収した愛好者117通(71.8%)および指導者89通 (76.1%)を分析対象とした。収集・整理したデータは、Excel 2013で単純集計
    後、SPSS21.0J for Windowsを用いてクロ ス集計及びχ2検定を行った。


       


        


       




  【用語についての定義と解釈】

    [ヒヤリ・ハット]:危険な目に遭いそうになっ て、ヒヤリとしたり、ハッとしたりすること。
               重大な事故に発展したかもしれない危険な出来事。

               公的機関によって対処されることなく事故には至らなかったものの、ほんの少しの条件の変化によっては大きな
               事故となり得た事例のことを一般的に「ヒヤリ・ハット」経験と呼んでい る。

               これらの事例については報告されることな く、関係者各個人の経験の中に留まり公表され る機会はない。

   [スノーケリング]:一般財団法人社会スポーツ センターが運営する日本スノーケリング協会に おいては、マスク、スノーケル、
               フィン、浮力体(ウエットスーツまたはライフベストなど)を着用し た「十分な浮力による水面での活動」

    と定義して いる。

     本調査では、日本スノーケリング協会以 外の指導者や指導を受けたことのない愛好者も 調査対象であることから、息こらえに
    よる水中 での活動(日本スノーケリング協会が定義して いるスキンダイビング)も含んでいる(図4)。


      




  【結果と考察】  

     活動中にヒヤリ・ハットを経験したことのあ る愛好者は 4.9%であった(図5)。ヒヤリ・ハッ トを感じた時の活動状況は、友達や
    家族とス ノーケリングツアー中47.7%、1人でスノーケリ ング中5.4%であった(図6)。要因については、 バディとはぐれたなどの
    実施中の活動に対する 不注意が36.7%と最も多く、次いでスノーケル クリアの方法が分からないなどの知識・技能不足の28.3%
    であった(図7、表1) 。


         

         



     指導者においては、活動中にヒヤリ・ハットを経験したことのある指導者・ガイドは43.8%で あった(図8)。ヒヤリ・ハットを感じた
    時の活動 状況は、ガイド中55.8%、講習中34.9%であっ た(図9)。要因については、気象・海象不注意が 24.0%と最も多く、次い
    でゲストの知識・技能不 足の20.0%であった(図10、表2)。ヒヤリ・ハッ トをなくすために必要と思われることについては、
    「事前の正しい知識と技術の指導」と回答し た者が、19名と最も多かった(図11)。  

     愛好者のスノーケリング講習の受講状況につ いては、「受けたことはない」と回答した者が、 56 名と最も多かった(図12)。
    講義または実技を受けた者を「受講あり」とし、スノーケリン グの受講状況から見たヒヤリ・ハット経験の有無には、統計的には
    特徴は見られなかった(図 13、表3)。  また、講習時に浮力体(ウエットスーツまた はライフベストなど)を着用させて行っていて
    も、ヒヤリ・ハットの有無には、統計的には特 徴は見られなかった(図 14、表 4)。  

     その他の項目についても、ヒヤリ・ハットの 有無を基としたクロス集計をおこなったが、いずれも統計的な特徴は見られなかった。

     海上保安庁が発表しているスノーケリング事故原因別事故者数では、実施中の活動に対す る不注意(23.4%)」に次いで、
    「知識・技能不足 17.2%)」、「気象・海象不注意(6.5%)」と報告さ れており、今回の調査でも同様に、愛好者のヒ ヤリ・ハット要因
    で上位を占める結果であった。

     また、指導者においては、今回の調査では、指 導者・ガイドがゲストに対するヒヤリ・ハット要因を回答していることから、
    「実施中の活動に対 する不注意」はなかったと考えられる。ヒヤリ・ ハット要因として、「気象・海象不注意」と「知識・ 技能不足」が
    同様に上位を占める結果であった。


        

        

       

        

        

             

        

             



  【結 論】  

     今回の調査から、愛好者のヒヤリ・ハット要 因として「実施中活動に対する不注意」が最も多 く、次いで「知識・技能不足」となって
    おり、ヒ ヤリ・ハット状況と内容(自由記述)からは、「一 緒に活動している人を見失いかけた(実施中の 活動に対する不注意)」、
    また「スノーケル技術 の未熟が原因によるパニックが起きた(知識・技 能不足)」などが挙げられている。  

     平成28年度海難の現状と対策(海上保安庁)では、スノーケルクリア(スノーケル内に入った 海水を排出)出来ずに誤飲し溺水
    などの知識・技 術不足、また単独行動時の死者・行方不明者の 割合が多いことを指摘している。  

     このことからも、愛好者がスノーケリング中 のヒヤリ・ハットを減らすためには、共に活動 しているメンバーとはぐれないために
    アイコン タクトをとるなどの行動と、トラブルが発生し た場合に対処できるように、2名以上で活動することが必要であること、そして、
    まずはじめに浅場でスノーケル技術を中心とした練習を行 う必要があると推測される。

     また、浮力体有無 に対するヒヤリ・ハット有無には統計的な特徴 は見られなかったが、着用者に比べ、非着用者の死亡率は
    2倍以上であることから、スノーケ リング活動時の浮力体の着用は必要であると考えられる。  

     指導者においては、気象・海象不注意のヒヤ リ・ハットが最も多いことから、事前の気象・海 象の情報入手と、活動場所において
    も気象・海象 の変化に注意を払う必要があると考えられる。  スクーバ・ダイビング活動時の水面休息中に スノーケリングを行う
    ことや、ドルフィンスイ ムに参加することも少なくない。

     今回の結果を スノーケリング愛好者と指導者・ガイドと合わ せて、ダイビング活動を行う者とも共有するこ とが、ヒヤリ・ハット
    の軽減とともに、事故防 止に繋がると考えられる。



  <調査・分析を通じて、事故防止の観点からの私感>

    健康な状態で活動する(もちろん飲酒は厳禁)。

    スノーケリング指導者(有資格者)から正しい基礎(知識・技術)を学ぶ。

    浮力体(ウエットスーツまたはライフベストなど)を着用する。

    2名以上で活動し、常にアイコンタクトをとる。

    潜水(息こらえによる水中での活動)を行う際には、別途、 知識・技術を習得する。

    油断しない(手軽さゆえの危険がある) 。

    事前に気象・海象の情報を入手および変化に注意する。

    事前に活動海域の情報を入手する(潮の流れ、危険生物、船舶往来など)。