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         レジャータイバーの減圧症発症誘因の検討   −伊豆・沖縄調査−



                                        鈴木 直子  株式会社オルトメディコ







   《はじめに》  

      ダイブ中における、不活性ガスの吸収と蓄積による気泡発生が減圧症の発症要因と考えられている1-4)。
     減圧症の発症の早期治療は高気圧酸素治療が必須であるが、多くのレジャーダイビングスポットは専門的な治療を行える病院
     から遠く、かつ診断が難しいため、対処が遅れる場合がある。それによって重度な後遺症が生じる場合や最悪の場合、死に至る
     ことがある。

     減圧症は、ダイビング中の動作や体調に関連したさ まざまな要因の影響を受けることから1、2)、ダイビングと減圧症との関連を
     調査することは、減圧症防止や診断に有効である。よって、減圧症の発症を早期発見できるツールの開発は減圧症の早期診断
     に役立つことが期待される。  

     我々はこれまでに、減圧症の発症を予測できるツールの開発を目的に、独自に開発したアンケートを用いてレジャーダイバーを
     対象としたケース・コントロール研究を行ってきた1、2)。

     我々が作成したアンケー トは、伊豆地域および沖縄地域において減圧症の発症要因を見出し、アンケートは、伊豆地域(対象者
     の一致率 95.7% 1)、 および沖縄地域(対象者の一致率 87.4% 2)において減圧症を予測する上で十分な精度を持つことが示さ
     れた。

     本セミナーでは、既報の伊豆1)および沖縄2)の調査で見出された知見を報告するとともに、両地域のデータを比較することで
     明らかとなった知見を報告することとした。



   【対象・方法】  

      既報の研究は、2009年4月〜2014年12月の間に伊豆地域および沖縄地域でダイビング後に東京医科歯科大学高気圧
     治療部を受診し減圧症と確定診断された182例(伊豆93例、沖縄89例) を減圧症群、同時期にに伊豆地域および沖縄地域で
     ダイビングをした健常なレジャーダイバー510例(伊豆336例、沖縄 174例)を対照群としたケース・コントロール研究であった。

     アンケートの項目はダイビング前後およびダイビング中の状態について30項目を用いて評価し、対象者は所定のアンケート用紙
     に記載された各項目に、はい/いいえで回答した(表 1)。また対象のダイブプロファイル(最大深度、インターバル、潜水本数)
     も評価した。  

      統計学的検討については、上記の各因子につ いて、Wilcoxonの順位和検定を行うことにより2群間比較を行い、さらにオッズ比
     を求めることでリスクの大きさを定量的に評価した。

     両地域の比較検討では、Breslow-Day 検定、MantelHaenszel 検定、カイ二乗検定および強制投入法によるロジスティック回帰分析
     を用いた。


      表 1-1. ダイバー問診票

         

      表 1-2. ダイバー問診票
            

      表 1-3. ダイバー問診票
      

      表 1-4. ダイバー問診票
      




    【結果・考察】  

      伊豆地域では、減圧症発症誘因として次の項目が検出された。

        危険因子は

        「整形外科(むち 打ち、関節痛、腰痛など)の受診歴」
        「下痢や嘔 吐、脱水症状」
        「水深30m以上の潜水
        「1日3本以上の潜水」
        「浮上スピードの超過警告アラー ム」
        「ダイビング中の息切れ」
        「ダイブコンピュー タの減圧停止」
        「ダイビング後の寒気」                   であり、

        予防因子は

        「性別(男性であること)」
        「ダイビング前の水分補給」
であった(表2)。

      一方の沖縄地域では、減圧症発症誘因としてとして次の項目が検出された。

        危険因子は

        「減圧症の既往歴」
        「半年以上ぶりのダイビング」
        「前夜の飲酒」
        「ダイビング前の疲労感」
        「ダイビング中の息切れ」
        「ダイビング中の寒気」
        「ダイブコンピュータからの減圧停止指示」
        「ダイビング中後の寒気」                    であり、

        予防 因子は

        「ダイビング前の水分補給」
        「ダイビング中のディープストップ」
        「3分以上の安全停止」
        「安全停止中の遊泳」
        「ナイトロックスボンベの使用」                   であった(表2)。


        表 2.伊豆地域および沖縄地域における因子

        



      それぞれの研究において、ロジスティック回帰分析からの回帰式を求めたところ、伊豆地域の一致率は95.7% 1)、
     沖縄地域の一致率は87.4% 2)であった( data not shown )。  

      両地域を比較検討した結果において、両地域に共通する項目が11項目検出され(表3)、危険因子( OR>1の項目 )には
     体調や無理な潜水方法に関する項目が認められた。予防因子( OR<1の項目 )は、潜水前の水分補給やディープストップなど
     が認められた。


     表 3. 両地域に共通な因子

        
        OR, オッズ比 ; CI, 信頼区間

     各地域に特徴的な項目も検出され (表4)、地域によりリスク因子( OR>1、危険因子 ; OR<1、予防因子 )が異なる結果と
     なった。各地域に特徴的な項目を用いて、ロジスティック回帰分析から各地域の回帰式を求め たところ、対象者の一致率は
     伊豆地域77.5%、沖縄地域76.6%であった( data not shown )。


        表 4. 各地域に特徴的な因子

        
        OR, オッズ比 ; CI, 信頼区間


      以上のことから既報の結果1、2)と統合解析を試みた結果から、我々が開発したアンケートを 使用することで、減圧症を発症し
     うる十分なリスクを持つことの予測がおおむね可能であることが見出された。

     また、減圧症を予防する上では、両地域に共通する項目を重視するとともに、地域に合わせた潜水時の注意点や安全な潜水
     計画を啓蒙していくことが最も重要な取り組みで あることが明らかとなった。





   【参考文献

  1)Suzuki N, Yagishita K, Togawa S, Okazaki F, Shibayama M, Yamamoto K, Mano Y.
    A casecontrol study evaluating relative risk factors for decompression sickness:
                       a research report. Undersea Hyperb Med. 2014; 41: 521-530.
  2)Suzuki N, Yagishita K, Enomoto M, et al.
    A case-control questionnaire survey of decompression sickness risk in Okinawa divers.
                       Undersea Hyperb Med 2018; 45: 41-48.
  3)Beckman TJ.  A review of decompression sickness and arterial gas embolism. Arch Fam Med 1997; 6:491-494.
  4)Beckman TJ, Mullins ME, Matthews MD.
    Case report on a diver with type II decompression sickness and viral meningitis. Undersea Hyperb Med 1996; 23:243-245.