Medical Information Network for Divers Education and Research



論文 36




 ダイバーとトレーニング


                                 高橋 実      スリーアイ 







 小田原ミーティングでは、前回、トレーニングの種類と方法について筑波大学の野村先生から「ダイバーのための体
つくり〜基礎トレーニング〜」という題で講演を頂きました。

 今回はダイバーにどうしてトレーニングが必要なのか?そして、どのようにトレーニングをしたらよいか?との見地か
らお話をさせて頂きます。





1.はじめに

 私がダイビングを始めた40数年前は、今から比べるとダイバー人口はかなり少なかったのですが、プールでの水中
運動会・水中競技会、海洋や湖でのフ リッパーレース・水中ナビゲーション大会などがかなりの頻度で開催されていま
した。しかしその海洋フリッパーレースで女子大学生の競技者がゴール地点を見失い漂流したため一時行方不明にな
ってしまったことや、今度は、泳力向上を目指したプールでの立ち泳ぎ訓練中に男子学生の死亡事故がおきてしまった
ことなどを契機に、ダイビング界は体育会系とか、ダイビングはあくまでも手段であるという文化部系という色分け・グル
ープ化が進みました。しかしその後、ダイビングバブル?の時代に入り、新しいダイバーを大量に迎え入れる過程の中
で「ダイバーとトレーニング」と言う言葉は使われなくなってきましたし、意識もされなくなってきたと感じました。

  私たち潜水団体スリーアイは15年前に活動を開始するに当たり、自分の基礎体力を知り、トレーニングによってそ
れを維持向上させることは、陸上とは違う未知の世界・水の世界に向かい、活動する上では大切なことでトレーニング
を欠くと、水面・水中の活動の場、活動の量は大きくなりません。そうなれば水中の楽しみは大きくならないし、かえって
小さくなってしまう可能性もある。との観点で「トレーニング論」〜体力トレーニング編を刊行し指導・教育のひとつの柱と
してきました。



2.余裕力

 ダイビング、特にスクーバダイビングを語る時、これ手段にした目的などをふくんで 、レジャーダイビング、レクレイシ
ョナルダイビング、スポーツダイビングなどといろいろな言われ方をしますが、いずれのダイビングにしても水中、水面
で自らの体を動かして活動することには変わりません。身体を動かし活動する時、その体力に余裕があれば活動の場
や量をひろげることもできますし、余裕があればもろもろの出来事に落ち着いて対応できます。

 余裕を持つことは、ダイビングをもっと・もっと・もっと安全に楽しむために必要なもので、その関連分野は体力、技
術、精神面と多岐に及びますが「体力トレーニング」を欠くことは出来ません。



3.瞬発力と持久力 ―無酸素系運動と有酸素系運動―

 人間活動(身体運動)は、全て骨格筋の収縮によって行われています。骨格筋は筋繊維の束が集まって出来ていて、
この筋繊維には速筋繊維と遅筋繊維があります。速筋繊維は収縮スピードが速く大きなパワーを発揮しますが、持久
力は余りありません。遅筋繊維は収縮スピードが遅くパワーは小さいのですが、持久力は大きくなります。瞬発力の速
筋、持久力の遅筋ということができます。

 この骨格筋を収縮するエネルギーはATP(アデノシン3リン酸)がADP(アデノシン2リン酸)に分解する時のものが使わ

ます。
 しかし、ATPの蓄えは少ないのでATPを再生しないと運動を続けることはできません、その再生時のメカニズムで無酸
素系と有酸素系に分けられます。主として糖質からのエネルギーが優位になる無酸素系運動を[アネロビクス]といい、
脂質からエネルギーの大半が供給される有酸素系運動を[エアロビクス]といいます。

 アネロビクスの代表的なものは短距離走、投てき競技など強度が強く短い時間で終わるもので、エアロビクスはジョ
キングやゆっくりした水泳など強度の強くない持久系のものをいいます。ダイビング活動は持久系の有酸素系運動[エ
アロビクス]の範疇に入ると考えられるでしょう。



4.加齢による身体の変化と心拍数

 ダイビングを始める時には「スクーバダイバーのためのメディカルチェック・ガイドライン」や各指導団体の健康チェッ
クの後に講習をはじめ、その後技術認定を受けているはずです。一般ダイバーは健康であると考えるところから始めま
しょう。

 それでもダイビングを始めてから経験を重ねていくと自然に年をとることとなります。人間が年をとると、人間が生きて
いくうえの基本的な能力は、その年齢とともに衰えていくようです。例えば、人間の筋肉量について上半身はあまり変わ
らないが、太ももの前後は20歳をピークに毎年体重の1パーセントずつ減少し、40歳で20歳時より20パーセント落
ちているとか、呼吸・循環器系などの予備能力も20歳時の体力と比べて45歳でその2/3,65歳で約半分になるといわ
れています。

 心拍数も同じで、最大心拍数は220からその人の年齢を引いた数を目安にします。20歳の人は200拍、40歳の人
は180拍、60歳の人は160拍とその上限値はさがります。この心拍数を最大負荷時のものにして運動の負荷を計る
バロメーターとしてトレーニングを行います。



5.運動強度と心拍数の関係

 運動強度を表す時、酸素摂取量を用いる方法もありますが、測定する時に機械が必要になることや、実際の運動時
には生理的な反応も考慮する必要があるので心拍数を用いた方法がとられます。

 運動強度が高まると、最初心臓は1回当たりに送り出す血液の量を増やし対応しますが、その後は拍出する回数を
増やし運動負荷に対応するので心拍数はよいバロメーターとなります。トレーニングの強度と心拍数の関係をあらわし
た表は、対象とする運動のタイプによりその幅は微妙に変わっていますが、競技における持久力アップを目指したトレ
ーニングの時は心拍予備量の70%以上にあたる心拍数で行なわれることが多いようです。
30分以上運動をしていても、疲労物質にもなる「乳酸」のたまらない境目の運動強度をAT(Anaerobic Threshold 無酸
素性作業閾値)といいます。実際には血中乳酸の変化から求めているので LT(Lactate Threshold)ともいい、個人差
はかなりありますが心拍予備量の40〜60%程度にあたる心拍数となります。この範囲内で脂肪を主なエネルギーに
した有酸素運動をすれば、持久力向上とあわせ生活習慣病予防や健康維持に大いに役立ちます。



6.カルボーネンの公式による運動負荷指標

 220公式、すなわち220から自分の年齢を差し引いた数値を運動強度100%の最高心拍数、朝起きたときの安静時
心拍数を運動強度0%の心拍数とし、最高心拍数から安静時心拍数を差し引いた値をもって心拍予備量とします。

 今、30才・安静時心拍数60の人が持久力アップを目指して心拍予備量70%にあたる運動強度でトレーニングをす
る場合の目標心拍数は
心拍予備量×運動強度(%)+ 安静時心拍数 から求めます
(220−30−60)×0.70 + 60=151
私(60才、安静時心拍数50)が同じ運動強度でトレーニングしようとした場合の目標心拍数は
(220−60−50)×0.70 + 50=127
になります。現在の自分のATはランニングでキロ6分のスピード時で心拍数138位にあると感じています。138拍は運
動強度にすれば心拍予備量の80%、徐々に乳酸が蓄積してくる「苦しいゾーン」に近いところにあたります。しかし、体
感としてそんなことはありません。少しは鍛えられたかなと思います。



7.トレーニング過多と故障 

 トレーニングには「過負荷の原理」・・適応水準以上の負荷を与え適応水準を上げる。すなわち負荷を高めないとレベ
ルアップにはならない、という原理があります。このレベルアップを目指す時、「暫進性の原則」・・体力の向上に伴って
少しずつ負荷を増していく・・を守れれば良いのですが、つい急ぎすぎたり、頑張りすぎの無理から故障を起こしてしま
いがちです。

 トレーニングを行うと、筋肉は一時的に疲労しますが、一定の時間を空ける(休息する)とその疲労は回復します。適
切な刺激であれば前より高いレベルに達し、これを超回復と呼びます。年齢の高い人やトレーニング経験の浅い人は
ベテランより多くの時間を要するので、自分のレベルに合わせ休息をしっかりとった方がより効果的なトレーニングにな
ります。

目標心拍数とトレーニング強度

表1 目標郷土(%)の指標

70%
 スポーツ選手の持久力アップ
65%
 一般の人の持久力アップ
60%
 シェイプアップ
50%
 健康の維持
40%
 積極的休養としての運動

「図解スポーツトレーニングの基礎理論」 横浜市医科学センター編より



8.マフェトン理論によるトレーニング

 マフェトン博士の唱えた「マフェトン理論」を簡単にいうと、競技成績の向上と健康を両立させる目的の為に、心拍数
の比較的少ないエアロビクストレーニングを続けていくと、循環器系、関節を含めた骨格全体、筋肉、内分泌系など、
身体全体が健康な状態になっていく、ということです。実際のトレーニングにおける目標心拍数は、「180公式」を用い
て求めた最大エアロビクス心拍数とそこから−10した心拍数の範囲内で行い、前後に最低でも15分ずつのウォーム
アップとクールダウンを必ず行う。そしてこれを続けるというものです。

 前にあげた、30歳で過去2年間余り問題なくトレーニングやスポーツが出来ている人が、このマフェトン理論によりト
レーニングをする時の目標心拍数は
  180−30=150   150拍と140拍の間でトレーニング
 私、60歳で2年以上たいした問題もなくトレーニングやスポーツが出来ており大きな病気もケガモしていない、の目標
心拍数は
  180−60+5=125  125拍と115拍の間でトレーニング

 この理論では食事と運動は深く関わっているとして、血糖値を安定させるための3大栄養素のカロリー比率は、炭水
化物:たんぱく質:脂肪:=40:30:30にするなど「何をどれだけ食べるか」とか、食事と食事の間にこまめに水を飲む
ことなどを大切にしています。

 比較的緩やかな活動をするダイバーにとっては適したトレーニング方法とおもえます。私も46歳でこれからもダイビ
ングインストラクターを続けたいとの想いでランニングのトレーニングを始めた時、早く走ろうとして少し負荷をかけ過ぎ
てしまい故障気味になりましたが、このトレーニングに変えてから故障はほとんどなくなりました。今までの腰痛も改善さ
れ、現在も、より余裕力の高まったダイビングの出来るよう改めてレベルアップを目指しています。


表2 180公式


現在の自分の状況


 A) 病気(心臓病、何らかの手術、何らかの入院など)にかかっている。
    あるいは治ったばかりか、投薬を受けている。

    [ 180−年齢−10 ]

  B) 最近ケガをしたか、トレーニングやスポーツなど調子が良くない。風をよく
    ひく、アレルギーがある。

    [ 180−年齢−5 ]

  C) 過去2年間、あまり問題なくトレーニングやスポーツができている。あるい
    は、風邪を年に1度か2度しかひかない。

    [ 180−年齢 ]

  D) 2年以上たいした問題もなくトレーニングやスポーツができており、大きな
    病気やけがもしていない。

    [ 180−年齢 +5 ]


30歳でCにあたる人は、180−30=150     150と140の間でトレーニング
60歳でDにあたる人は、180−60+5=125   125と115の間でトレーニング




9.心拍計によるトレーニング

 トレーニングを行う時の心拍数の計測には、触診法と心拍計による方法とがあります、触診法は心臓から鼓動によっ
て押し出された血液が血管を押し広げる脈拍数を数えて心拍数にします。左手首部の身体表面に近い部位での計測
には感覚の鋭い人差し指、中指、薬指の三本、首の頚動脈で計測する時は人差し指と中指の二本を使うと脈を取りや
すくなります。

 心拍数は1分間あたりの値をもちいます。安定している時は1分間連続して測定します。変動しやすい場合は、余り
長く測定していると正確に現況を評価したものにならないので、10秒もしくは15秒間測定しその値を6倍もしくは4倍し
ます。
 心拍計による測定は、トランスミッターを胸につけ発信された信号を腕時計状のレシーバーで受けます。リアルタイム
で心拍数をディスプレイするので現況の把握が容易です。インターバル間の平均心拍数、最大心拍数、トレーニングゾ
ーンの設定及び警告音等の機能はもちろん、時計機能も付いているのでこれひとつでトレーニング状態の概要を把握
できるので極めて有効です。

 触診法が多くなりますが、トレーニング時の各人の心拍数をチェックすることで負荷がかかりすぎていないかを判定
し、より効果の上がるトレーニングを行うことが出来ます。これは講習等においても利用できる指標で効果ばかりでなく
故障や怪我の予防にも役立ちます。



10.ジョギング・ランニングによるトレーニング

 ダイビングのためのトレーニングは、実際に水域にダイビングして技術体力等その能力を高めるのが最善だと思い
ますが、脱日常、異次元への旅立ち等を標榜(?)しているダイバーは、その機会を多く持つには無理なことが多いと
思います。

 日常生活の中でダイビングに適した体力トレーニングは、ジョキング・ランニングからが始めやすいし、心肺機能や筋
肉の強化にも有効で、総合的に見て最もふさわしトレーニングと思います。ウオームアップ・クールダウンをきちんと組
み入れた180公式によるトレーニングを先に見据えて、比較的負荷の低い有酸素運動であるジョキングからはいりま
しょう。



11.水泳による心肺機能の維持向上

 ダイビングは水中・水面が舞台なので、同じ水環境のプールで行う水泳もたいへん有効なトレーニングです。本来な
らフィンをつけたフィンワークのトレーニングが出来ればよいのですが、「その場」であるフィンの使えるプールは少ない
のでフィンワークに似通ったキックであるクロール泳法中心のトレーニングになります。

 ダイビングは、足すなわちフィンによる推進力を主に利用します。しかし水泳の主な推進力は手によるもので少しニュ
アンスは異なりますが、ダイビングと同じ口からの呼吸リズムを掴み心肺機能を高めるには大変適しています。



12.筋肉トレーニングとストレッチ

 行動、運動をするうえで欠くことのできない筋肉を鍛えるのには筋肉トレーニングが効果的です。手足の筋肉をつけ
るには腕立てやスクアットがあります。

 腹筋を鍛える、これはダイビングの活動時には極めて大きな役割をします。

力を発揮して継続するときは体を伸ばします。直線になった時、力は発揮されます。体の直線を維持するときに腹筋、
背筋の役割は大です。又、その力の方向を変える時には一度体を曲げ、丸まってから次の目標に向かって体を伸ばし
ます、体の屈折は腹筋に頼ります。

 縮めた筋肉をほぐすストレッチも欠くことは出来ません。トレーニングの前後にはウオームアップ・クールダウンとして
行われたりしますが、時間のない時にはこれらを丹念に行うことだけでも有効なトレーニングになります。無酸素系運
動にならないよう呼吸を意識することも大切です。



13.呼吸方法のコントロール

 私は水泳のトレーニング時、呼吸はもっぱら口を使います。これはダイビングの呼吸と同じです。しかし、ランニング
のトレーニング時は鼻からの呼吸をメインにします。口からの呼吸をしなくても苦しくならないペースが有酸素運動として
最も効果の上がる負荷量となっているようです。口から呼吸をしなくてはいけない時は負荷の極めて高いアネロビ運動
に入っていると判断します。口と鼻、このように運動によっても呼吸のしかたを変えられる、すなわち呼吸のコントロー
ルができることはスクーバダイビングには大切なことです。

 深くて大きな呼吸法はスクーバダイビングには欠かせません。まず呼気1,2,3、そして給気4,5,6の大きな呼吸法をトレ
ーニングの最中にも意識して、このリズムを是非身につけたいものです。



14.パフォーマンスの場

 速く泳げることは、通常は余裕を持ってゆっくり泳げることでもあります。ダイビングの安全度を高めることにも繋がり
ます。速く泳ぐためには無駄のない合理的な動きをする必要があります。これは美しさに繋がります。速く泳げることは
美しいことです。

 その努力量・美しさを評価する、もしくは評価されるパフォーマンスの場がダイビング界にはあまり多くありません。プ
ールでは12月の「全日本室内水中スポーツ選手権大会」、海では「海を泳ごう」などのイベントもありますが、もっと・も
っと・もっとオープンウオーターを会場にしたイベントや大会が必要です。

 マラソン大会、トライアスロン大会などは全国各地で数多く開催されています。私もトレーニングの成果を評価するた
めいろいろの大会に参加しますが、そこでたくさんのダイバー(インストラクター)に出会い、競い、交流して楽しみます。
そのとき話題になるのは「ダイビングにもこんな会があると良いね」でした。ダイビングは一人もしくはバディー単位で物
事を考えがちではありますが、海や水を通した人の交流はダイビングをより楽しいものにしてくれます。これからは交流
の場ともなるパフォーマンスの場をもっとたくさん用意していきたいものです。

 また、ツアーやファンダイビング゙の海行きそのものがパフォーマンスの場であると考えるダイバーの場合、そのダイ
バーやバディー、チームをコントロールして安全面のリーダーとなるインストラクターやガイドダイバーの役割はかなりハ
ードのものになります。技術や知識などのソフト面以上に体力で勝っている必要があります。トレーニングや体力の維
持向上に励み、美しい泳ぎ、美しいデモンストレーションを表現できなければなりません。



15.体力を評価し水中活動範囲を規定する

 これは大変難しいことで、残念ながら定量的な方法はないに等しいといえるでしょう。環境や条件の異なる中、限られ
たガスを使い、限られた時間のダイビングを終了した時、トレーニングの成果としてそのダイビングがどれほど楽な状
態で行われたかを自らの感覚で総合的に判定するしかありません。ここに「ダイビングに於けるトレーニングの効果」を
いう難しさがあります。

 しかし、心拍数を知ることで体の調子、メンタルな面も含めて判定できるのは有意義なことです。近頃、ダイビング゙中
の心拍数も測れるダイブコンピューターも発売されたので今後が楽しみです。前回に感じた余裕力や心拍数(負荷)を
基にして、次回の水中活動範囲を規定したダイビング計画を立てましょう。そして、活動範囲が広がってより深くダイビ
ングを楽しめたのに、余裕力は変わらないか、大きくなるダイビングをして頂きたいものです。



16.「トレーニング」を「準備」に置き換えたら

 体力トレーニングを行う時その前にウオームアップ、その後にクールダウンを行います。これを行わないと効果はあ
まり芳しくありません。ダイビングを行う時のウオームアップは準備に当たります。準備がきちんと整えば、そのダイビン
グは7割方成功(終わった)といえます。実際のダイビングでも同じことが言えます。

 エントリー時には重たい器材を背負ったり、波など物理的にも大きなストレスがかかります。エントリー前に十分な準
備体操などのウオーミングアップをして心拍数を上げてからエントリー、潜降に移りましょう。この時体力温存とかの理
由で何もしないで水に向かえば急に大きな負荷を受けたこととなり、おもわず無酸素系運動で対応せざるを得なくなり
ます。その後の呼吸はあがり、貯まった疲労物質で体調は崩れ、続く潜降にも影響の及ぶ可能性があります。

 同様にエクジット時の負荷も大きいものです、この時、余裕力を使い切ってしまっていると大きくなった負荷に上手く対
応できず、トラブルが発生してしまう可能性があります。ダイビングは水面や浅い所ほど大きな変化と負荷のかかるこ
とを認識し、それらに対応できる状態に体の機能を高めておきましょう。

 一流アスリートのウオーミングアップはかなりキッチリとしています。本番大丈夫ですか?と思う位汗をかいて入念にし
ています。そこまでとは言いませんが、備えあれば憂いなし、十分な準備体操が安全で楽しいダイビングに導いてくれ
ます。




図1 ダイビングの経過と心拍数

性別
年齢
安静時
準備
EN 潜降
潜水中
浮上 EX
整理
A
23
60
134 (155) 
146 (166) 
109 (172) 
153 (154) 
131(154) 
B
33
53
85 (114) 
83 (127) 
79 (111) 
108 (145) 
82 (120) 
C
37
56
72 ( 96) 
72 ( 97) 
 98 (121) 
96 (124) 
69 (100) 
D
60
50
78 ( 93) 
78 ( 93) 
84 ( 94) 
76 (106) 
77 ( 88) 

注 : ( )内は最大値を示す



17.環境に配慮した日常がトレーニング

 トレーニングを始めようとした時、プール施設やランニングに適したコースがないとか最初は構えてしまいますが、「過
負荷の原理」をおもいだして、まずは普段より少しだけでいいから負荷のかかる行動をしてみましょう。そしてそれをトレ
ーニングしていると意識し時間、距離、内容を記録に残していきます。心拍も同じように記録しておくと効果判定に役立
ち、トレーニング継続へのモチベーションを維持するのに役立ちます。犬の散歩や一駅手前で降りて歩くのも有酸素運
動のトレーニングです。エレベーターを使わず階段を歩くこれも筋肉トレーニングにつながる立派な運動です。まずは意
識して、行動して、記録しましょう。それから少しづつで良いので負荷を上げ、続けましょう。

 このように歩いたり、自転車を利用することは私たちを取り巻く環境、すなわち持続可能な社会に向けた循環型社会
を形成、地球温暖化防止のための低炭素社会の構築にも、いくらか寄与するかもしれません。日常生活やダイバーが
重い荷物を運ぶ時に依存する自家用自動車は、鉄道に比べ約9倍の炭酸ガスの排出量といいます。その炭素ガスは
海水に取り込まれサンゴ内の褐虫藻や海藻類の光合成に利用されます、それらを折ったりあおぎ飛ばしたりしないよ
う、フィンの先まで神経の行き届いた美しい泳ぎの出来るようトレーニングしておきましょう。



18.まとめ

 社会問題となっている生活習慣病・メタボリック症候群等の対策や、生涯スポーツとしてダイビングを楽しむために
も、脂質を燃焼させる有酸素運動によるトレーニングの継続は有効です。どんなに若くてもけして早すぎることはありま
せん。

 冷や汗かかず、いい汗かいて、美しくなって、もっと・もっと・もっと余裕を持ったダイビングを楽しみましょう。







参考引用文献

1)トレーニング論―体力トレーニング編               スリー・アイ編
2)スポーツトレーニングの基礎理論                  横浜市スポーツ医科学センター編
3)トレーニング指導者テキスト 理論編                ベースボール・マガジン社
4)体脂肪を燃やすスポーツトレーニング               別冊宝島編集部編
5)トライアスロン ジャパン                       ランナーズ社
6)強い体を作るコアトレーニング                   池田書店
7)循環器系から見たエイジングとダイビングの危険な関係    DANジャパン会報Vol.39
8)Own Safety With Own Risk                     DANジャパン会報Vol.40
9)中・高年のマイナスは改善できる!己を知ってスキルアップ   DANジャパン会報Vol.40





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