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論文 48





 ダイバー各自が考えるべきダイビング事故防止            


                                慶松 亮二    株式会社 K.D.S. 代表取締役






 既にこの潜水医学講座小田原セミナーも13回を迎え、第7回に「安全潜水の為の自己教育」というタイトルでお話をさ
せていただいてからでも6年が経過しております。

 
 前回は「能力範囲」判定と言う事を中心にお話しさせて戴いたわけですが、今回の講演にあたって過去12回の抄録集

を見直してみました。多士済々な方々がそれぞれの専門分野での貴重なお話をされており、改めてこの潜水医学講座
「小田原セミナー」の意義を痛感したところです。


 その中から何人かの先生方の言葉を振り返ってみましょう。


 最初に、第7回潜水医学講座「小田原セミナー」でワークショップ「安全潜水確立に向けて」の司会をなさいました

池田知純先生(埼玉医大客員教授・日本潜水協会顧問)は司会者寄稿文の中で

 「最後に、敷居を低することについて
触れておきたい。」

と述べられました。

 敷居を低くすると言う事について

それぞれの分野の敷居を低くし総合的な視点を持って臨まなければならない言とう事であり、言い換えれば自分の専
とする分野以外にも相応の知識を持って取り組んでいかなければ、潜水を正しく把握し事故防止に向けて実効のある
対応をとることが期待出来なくなる。と仰っておられるのです。

 これはこの潜水医学講座「小田原セミナー」の有用性を強調なさった言葉ですが、私は同時に我々ダイバーに対しての
強いメッセージでもあると理解しています。

 ここで私事で恐縮ではありますが少し私の事を紹介させていただきます。私は科学者ではありません。

 生涯1現役ダイバーとの信念のもと、いつの間にか50余年のダイバー人生を過ごしてきた普通のダイバーです
しかし、幸いなことに定置網補修ダイバー、作業ダイバー(工事、調査)、ダイビングインストラクター、潜水工事会社経営、
ダイビングショップ経営、私的ダイビングクラブ運営等などおよそ潜水業界で考えられる主な潜水活動の全てを体験し
継続する事が出来ました。
潜水時間も何年か前に30,000時間を越えたところまでは日報で確認しています。

 その中で誇れる事はただ一つ、株式会社 KDS設立の1970年以来工事部門、調査部門、ショップ部門、そしてインス
トラクションとその卒業生の潜水活動を含めて無事故記録を更新中であるという事です。そんな小生が現在思うのは
池田先生のおっしゃる通りダイバーは潜水をしていれば(経験さえすれば)自動的に安全に近づいたり、ステップアップ
講習さえ受ければ(潜水技術さえ修得すれば)それが突然安全を手に入れる事になったりはしない。と言う事です。

 常にアンテナを張り巡らして最新の情報を取り入れるだけでなく、情報を消化できる基礎能力を磨く事こそ「自立して
安全を確立する事の出来る環境」をつくることに他ならないでしょう。

 少なくともInstructorやDM等のリーダーシップたるもの、またこれを認定する指導団体トップたるものは、潜水医学な
るものを云々する前に医大に入学した学生が最初に勉強する「生理学入門」程度は学ぶべきと思いますが如何でしょう?

 このような基礎能力を共有することなく業界に流布する情報に接すれば、取捨選択のすべもなく誤った情報を取り込ん
でしまうことにもつながりかねません。


第一の教訓:ダイバーとしての専門分野とは潜水そのものであるが、潜水の安全を考えるにはただ経験を積ん
         だり、ステップアップ講習を受けたりするだけでは足りない。


 専門分野の事は判らないと言わず勉強し基礎能力を高めなければ人任せの安全対策に自分をゆだねなければなら
ない。
自己責任と言うのは言葉だけのことではなく。努力して手にいれるものなのです。


 次に第7回潜水医学講座「小田原セミナー」抄録集から、田原 浩一氏(NPO:日本安全潜水教育協会)による
「スキューバーダイビングにおけるレスキュー技術」を見てみましょう。

 その演題の中で現在当たり前に行われている既存の技術を検証し、(勿論自身で実施し)陸上での救命技術と融合さ
せて新しい技術を提唱しておられます。いわく、世間一般のダイビングレスキュー技術として定着しているドゥセイドゥ
ポジションによるマントゥマン救助は
現在のダイバーに対する講習技術としては適正ではないのではないか?

 もっと確実で易しい方法を論理的に考え、取り入れ、普及させる必要があるのではないか?と説いています。その上
で自ら検証した技術を提唱しているのです。

 田原氏はテクニカルダイビングの第1人者でありその広い見識と真摯な姿勢で有名な方であります。潜水に関する知識
・経験はもとより多くの周辺分野についても豊富な勉強を怠らなかった結果、既存技術に潜む矛盾をあぶりだす事が出来
たのです。

第二の教訓: ただ覚えてはいけない。与えられたら考えて消化し、納得して自分の技術に昇華しなければ本物は
        
見えてこない。

 もう一人テクニカルダイビングの練達者をご紹介します。

第12回タイトルは潜水医学講座「小田原セミナー」抄録集から、久保 彰良氏による公演です。

 久保さんは「筋金入りのダイビングオタクです。」と公言しておられますが、全くその通りです。流石オタクと豪語するだけ
あって最新の減圧方式を取り入れて混合ガスを組み合わせたり、最新機器を駆使した減圧潜水を500回以上も行って
いらっしゃいます。

 そしてその実践をバックボーンに

 「私は自分が何を知っていて何を知らないのか、水中で何が出来て何が出来ないかを知っているつもりだ。」

と述べています。その上で

  1) 減圧の基礎理論と概念、減圧表を理解せよ。

  2) 事前に潜水計画を立て、その範囲内で潜水せよ。

  3) 個人差、環境条件を考慮せよ。

  4) 浮力コントロールの技能を上げよ。

  5) 減圧症は病気であることを理解せよ。

  6) 潜水の主体はダイバーであって、コンピューターではない。

  7) 良識を使い、想像力を働かせる。

  8) 最新の理論と情報に接する機会を作る。

 の8項目を上げて締めくくっています。

 久保氏はタイトルに沿って減圧手順に的を絞ってお話を展開しておられますが、その中に減圧に限らずダイバーにとっ
て普遍的課題とも言える事柄を述べておられます。

  1) 潜水に関するの基礎理論と概念を理解せよ。

  2) 事前に潜水計画を立て、その範囲内で潜水せよ。

  3) 個人差、環境条件を考慮せよ。

  4) 浮力コントロールの技能を上げよ。

  6) 潜水の主体はダイバーであって、機材ではない。

  7) 良識を使い、想像力を働かせる。

  8) 最新の理論と情報に接する機会を作る。

 何と項目の内7項目は僅かに単語を置き換えれば潜水全般に対する教訓になるのです。

第三の教訓: 経験と理論を融合して知性を養え。

         経験はデーターである。

         理論はプログラムである。

         データーが無ければどんなプログラムも無用長物。

         プログラムが貧弱なら膨大なデーターも正解を導かない。

         正しいプログラムを身に付け、少しでも多くのデーターを手にいれたダイバーだけが正解を導
         だす

 もう一人のダイバーをご紹介しましょう。

 潜水団体スリーアイ 代表株式会社 海洋リサーチ 代表取締役高橋 実 氏

 第10回潜水医学講座「小田原セミナー」抄録集「ダイバーとトレーニング」
 回潜水医学講座「小田原セミナー」抄録集ワークショップ「環境とダイバーの技術的問題点」

 高橋氏はトレーニング理論の中でダイバーのトレーニングは如何に楽に楽しく潜れるかと言う基準を持って行うべきで
あると繰り返し述べておられます。

 また第回の技術的問題点の中では本業の調査作業に於いての潜水と、レジャーダイビングの世界を対比さつつ纏め
として、

  1) 減圧のないダイビングはない。潜降(加圧)と浮上(減圧)を強く意識し、充分な対策を

  2) バックアップ体制の整備と自らの行動可能範囲を規定し、より安全なダイビングを

  3) ダイビングは誰でも出来るが、誰もがどんなダイビングでも出来るわけではない

と呼びかけ、その最後を安全に対する姿勢は潜水目的によって変わってはならない。」と締めくくっておられます。

第四の教訓: 普段に準備し、計画し、バックアップを整え、サポートダイバーを用意し、救助体制を整えよ。

        * マッチョだからと言って安全にはつながらない。トレーニングは無理をせず楽に(呼吸/脈拍が
          上がらない)行動範囲を広げる為に行うべき

        * 水深変化は加圧/減圧と思い対策を・ .・今現在の水深での潜水可能時間だけでなく、潜水の
          プロフィールと浮上(減圧)手順に注意を!(計画的を立て理解し行動せよ)

        * バックアップを用意せよ。サポートダイバーを準備せよ。救助体制を整えよ。

        * レジャー、テクニカル、作業、安全に関する姿勢は一つである。

 ダイバー界で著名な三人の方の意見をよく見ると、結局同じような結論に達しておられるように思われます。それは
いろいろな勉強をしろ!と言っているように聞こえてくるのです。

 ただ教わって、安全も、楽しみ方も、全てを人任せにしていてはいけない。

なぜなら水中は人間が生きていけない環境だからと言っているようにも聞こえます。

 何を勉強すればよいのか?

 池田先生はおっしゃいました。

 自分の専門(ダイビング)以外の分野について、相応の知識を持ってダイビングに臨まなければ、
 事故防止はできない

 ダイビングは素晴らしい活動です。でも 無条件に安全なダイビングは有りません。

 勉強をしましょう。

 考えましょう。

 そして自立して安全を確保できるダイバーになりましょう。


 その先に果てしない可能性が開けます。


 最後にこのセミナーに関して一言申し述べさせていただきます。

 「小田原セミナー」は平成12年1月から始まり今回で13回目を迎えました。

 最初は日本高気圧環境・潜水医学会関東地方会が主催し、平成15年から日本高気圧環境・潜水医学会関方会の
後援を受けて特定非営利活動法人潜水医学情報ネットワーク(理事長 西村周)が主宰しておられ、このセミナーが発信
する情報は我々ダイバーにとって掛け替えのない財産となっています。

 この場をお借りして日本高気圧環境・潜水医学会の諸先生方、NPO法人潜水医学情報ネットワークの皆さん、さらに
このセミナーを支えていらっしゃる多くの皆さんに心からの讃辞と感謝の気持ちをお伝えし、また今後続をお願いして終わ
らせていただきます。






13th 2012  総合目次  Top Page