Medical Information Network for Divers Education and Research 潜水病対策の世界的な流れ ー International Divers Alert Network の方向性
眞野 喜洋 DAN JAPAN 運営委員長
東京医科歯科大学大学院健康教育学教授
1 今までの経過
DAN Japan は前身が CAN ( Civil Alert Network ) とよばれた救急救助体制から発展的に設立され
た組織である。 CAN は1988年 12月 に答申された運輸省の海上安全船員教育審議会で、スクーバ ・ ダイビン
グの安全対策が検討された結果、1991年 7 月 に設立された (財) 沿岸レジャー安全振興協会の中で海洋レジャー
活動の安全性を確保するための事業であった。
この当時米国では、 1981年から DAN という体制が設備されており、オーストラリア、ニュージーランド地区では
DES ( Diving Emergency Service ) が潜水事故救急サービス体制を担当していた。またヨーロッパ 12 ヶ国
が IDA ( International Diving Association ) という潜水事故保険を中心とした互助組織を造っており、日本の
CAN を含む 4 つの組織を統合しようという機運が高まっていた。
1991年 2 月に米国 Duke 大学で国際会議がもたれ、アメリカ、オセアニア、ヨーロッパと日本の 4 極で強調し合う
国際 DAN 組織を発足させることになり、以後 I ・ DAN ( International DAN ) が共通の標語である 「 安全
潜水の啓蒙 」 のために一致協力することとなった。
各 DAN は国情、法律、システムがそれぞれ異なるが、少なくとも緊急時のホットラインを持ち、ダイバーは世界のど
こで潜水して、事故に遭遇しても互いに助け合える安全潜水システムを構築することで意見の一致をみて、これが
I ・ DAN の理念となった。 (詳細は眞野編著 : 潜水医学 P265〜P273、朝倉書店 1992 参照)
2 I ・ DAN の役割
I ・ DAN の構成員はアメリカを中心に各国合計約 20 万人の会員を数え、 I ・ DAN の役割は国や地域の壁
を超えて安全というサービスを提供することである。
国情、法律、言語等を異にする各国のサービス提供内容は異なるが、それぞれの DAN が自国の territory を守る
とともに他の DAN の業務を犯すことなく、ダイバーが何処へ出掛けても自国内で保障されている同じ品質のサービス
が受けられるように互いに協力し合うことによって成立しており、その為の相互の情報交換を毎年開催される各 DAN
代表者会議で交換し合うと共に、新しい情報や安全潜水のための方策を提供しあうことになっている。
1) 世界中で均一のホットラインサービス
2) 〃 の減圧症治療
3) 〃 の保険保障
4) 〃 の安全潜水システムの普及と確立
5) その他
昨年は 10 月に南ア連邦ケープタウンで開催され、本年は 7 月に米国バンクーバーで開催の予定で意見交換と共
に安全潜水のための共同事業を提案し合う。現在の最大のテーマは酸素供給法の普及、保険制度の確立、 DIRF
( Diving Injury Report Form : 減圧障害報告書 ) による 100 万例の事例の集積による減圧症予防対策の確
立などが挙げられる。そのためには相互にリンクした絆の下に共通した研究テーマを持ちながら安全潜水をさらに普
及させようとしており、これを I ・ DAN の使命と位置付けている。
つまり、日本の DAN システム ( 図 1 ) は日本人会員にとって海外でも同様のサービスを受けることができると考
えてよい。
3 将来の方向性
DAN が立ち上がったことにより、ヨーロッパ圏のネットワークはほぼ網羅されてきたが、赤道以北のアジア地区、南
米圏、とロシア圏が残されている。現在アルゼンチン、ブラジル地区で DAN 南アメリカが発足されるきざしにあり、赤
道以北のアジア圏の取りまとめを DAN Japan が行うよう期待されている。
しかし、 DAN Japan の独特な低料金保険制度の根幹を壊すことができず、これがネックとなって、台湾や韓国の
DAN 活動が軌道に乗れないでいる。また、ロシア地区は黒海を中心にレジャーダイビングがさかんとなりつつある
が、経済的に問題が山積みになっているロシアではまだ DAN を立ち上げる動きは起こっていない。いずれにしても地
球上のすべての海が I ・ DAN のネットワークで結ばれることが、ダイバーにとって望ましいと思われる。
DAN Japan に例をとってみると DAN 会員はやっと 1 万人を突破したのみで、経済的に自立できないのが現
状である。会員数の増加が見込まれないと会員へのサービス低下は免がれず、毎年のように脱会される方がおり、こ
れを無くす努力は一にも二にもより豊富なダイバーの望む情報を提供することで正会員数の増大を待つしかない。
DAN Japan のホットラインの利用率は非会員がその 3 分の 2 を占め、 DAN 事業のサービスを受けるのに会
員になる必要性は無いと考えるダイバーもいるようである。
しかし、海外に出て、万一潜水事故に遭遇した場合、救助は全く望めないのも事実である。かつて、グレートバリアリ
ーフで減圧症に罹患した女性は DAN Japan の会員であることが確認されて始めて救助用ヘリコプターが飛び、そ
の後の病院における高気圧酸素治療ならびにホテル宿泊も全て DAN 保険で済ますことができた。海外では保険に
入っていない場合には救助用ヘリも飛ばない事態も想定される。日本国内では空気と救助は無料であるので災害保険
の重要さに気付かぬダイバーが多いが罹患してからでは手遅れである。 DAN Japan のパワーアップがとりもなお
さず、 I ・ DAN の強化につながる。ちなみに会員の年会費の中の 50 セント分が I ・ DAN 事業に利用されて
いる。
1) O2 コースの普及
2) DIRF の普及と減圧症データーバンク
3) 安全潜水の啓蒙
4) 安全潜水に関する研究活動およびその援助
a. Project Safety Dive 安全潜水活動
b. Project Dive Exploration 潜水実態調査
c. Research Award 研究奨学
d. Partners in Dive Safety 安全潜水推奨者制度
5) その他
I ・ DAN を有効に機能させるためにも DAN Japan をより強固なものとして、赤道以北のアジア地区の安全潜
水区域を拡大させることも DAN の方向性の 1 つといえるのではなかろうか。 1 人でも多くの方が DAN 会員に登
録されることを期待してやまない。
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