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論文 48



  第11回日本高気圧環境・潜水医学会学術総会 ジョイントプログラム

 静岡県東部地域における発災時の「自助・共助・公助」を考え
             

                                西村 周   特定非営利活動法人潜水医学情報ネットワーク






1 はじめに

 第11回日本高気圧環境・潜水医学会学術総会は順天堂大学医学部附属静岡病院救命センター長卯津羅教授会長
の下、三島市で開催された。同病院はドクターヘリを運用するとともに、大規模災害時に現場医療を行う DMATを擁する
医療機関でもある。本学術総会の演題としては発災時に発生しうる「高気圧酸素治療」を要する傷病者に対し「搬送・
治療を行える医療機関との連携等」と「発災時の救命活動」に係る話題が本筋である。

しかし、大規模災害が発生したときに「高気圧酸素治療」が必要な傷病者、傷病者が何処にどれ程いるのか「現地情報」
を速やかに得る事も必要であり、これは発災直後の「救命・捜索救助」における情報収集が適切に行われることでしか
なし得ない。予想される「東海地震等」発災時に静岡県東部地域において被災地の状況を「孤立」する市町村等を含めて
情報収集がどのように確保されるのか、情報の集約と指揮命令系統に関わる確認が必要であるとの判断で、当社より
ジョイント企画として提案し「発災時の自助・共助・公助」のあり方について取り上げていただいた。




2 発災時の自助と共助、公助との連携      静岡県:協働   速やかな被災状況の把握   

 

静岡県東部地域は神奈川県及び山梨県とともに富士、箱根、伊豆にまたがる観光エリアに属し、同エリアには年間
1億2千万人を超す観光客が訪れる(平成16年調査)、わが国有数の国際観光地であり、それぞれの地域には季節に
よっては居住者以外に多くの観光客(国外含む)が流入しており、大規模災害発生時には、被災地域での救護活動とし
て、
 

1.トリアージと救命活動、傷病者の搬送。

2.避難所での診察、治療、投薬、広域搬送。

が行われる。これらの活動が迅速にかつ適切に行われるためには、被災地の状況把握が重要となる。また、発災時の
被災地での救命活動、傷病者の搬送、避難所の支援以外にも観光客避難と帰宅支援等が適切に、かつ迅速に行われ
る必要もある。

 しかし同エリアはIT 通信網の整備が遅れた地域でもあり、かつ各県境にあり連携が取りにくい地域と認識されている
ことから「発災時に孤立集落等からの情報発信ができるか否かが、最も重要な課題でもある。」と指摘されている。

 内閣府の調査と静岡県の報告(平成17年)では、東海地震等の大規模災害発生時における「中山間地等における
孤立集落状況調査」において、1400の中山間地域の集落のうち370以上が「孤立」すると予想している。静岡県では
「予想孤立地域」に対する連絡網の整備として、平成23年4月末に、大規模災害発災時に孤立すると予想される371地
区のうち50地区へ「衛星携帯電話」配備設置を完了し、残る地域についても順次配備を進めている。

 衛星携帯電話を配備された地域には、自主的にヘリポートを整備した地区もある。伊豆半島は過去の地震発生時に
「道路損壊等」による孤立地域が発生し、洋上からの救援物資搬送などの支援を受けた事例(下田市)がある。静岡県
では東北地方大震災時の津波による甚大な被災を受け、7月の実施を予定していた「防災週間」を5月に繰り上げ「津波
避難訓練」を各地で実施し、5月21日には約7万人が参加した。全ての市町において津波の想定を再考し「避難経路」を
含め「避難」と「避難所の避難用品備蓄と発電機と燃料の確保」の確認と「より良い改善」に繋がる訓練であった。

 しかし、被災地の支援については東北地方大震災の事例を見ても明らかなとおり、広域が甚大な被災をした場合の避
難所把握、地域住民の安否確認、家族単位での避難や、情報の収集の可否によっては、救命や被災地緊急支援が困
難であることがわかる。

 発災時に被災者となる私たち自身が「自助」として、「減災と自身の命を自ら守る」意識を向上させるとともに、共助とし
て避難所、自宅避難、孤立地域単位での情報の収集と発信、公助との連携による協働で速やかな救助、捜索、物資の
搬送、傷病者の広域搬送、帰宅支援につなげていかなければならない。そのためには、発災直後の協働として、

1.72時間以内の救命、捜索救助。

2.72時間以降の捜索と救命、輸送路、輸送

手段の確保、被災状況の確認。

3.1週間以降の避難所の運営、被災者の安否確認、

VC(ボランティアセンター)の活動とボランティアの受入れ、被災地の復旧・復興。

 などが適時、適切に行われる必要がある。

 これには関係各所における迅速な情報収集をもとにした適時適切な「コマンド&コントロール」の運用準備が整ってい
ることが重要である。大規模災害発災時には、できうる限り早い時間での実効ある「初動」ができるよう、当該地域の被
災状況の把握と同時に「指定避難所と自然発生避難所等」における、救命の必要な傷病者の有無の確認をもとに、
「72時間以内の救命・捜索救助」速やかに開始されなければならない。被災地内避難所等では自助、自治体と関係
機関が中心となり共助を行うとともに、救命と要救助者捜に係る被災地、避難所等の状況発信と確認が確実に行われ
なければならない。

 静岡県庁危機管理部県本部は常設の災害対策本部以外に「西部方面本部・中部方面本部・東部方面本部・加茂方面
本部」4地域の災害応急対策体制を整えている。

 また通信手段として総合情報ネットワークシステムが構築され、陸上無線通信、衛星無線通信を軸とした「静岡県通信
ASSIST –Ⅱ」と、主として県と市民間の情報伝達に使用される防災行政無線などがある。
 しかし、東日本大震災では情報の収集と発信を行う「自治体」自体が甚大な被災を受け、多くの職員の方々が亡くなら
れるなど、その後の救命、捜索、情報の収集と発信等に大きな支障が生じた。

 「災害対策本部」や医療を含む関係諸機関への情報発信ができない地域が多く、「連絡網が機能しなかった事例」とも
いえる。発災から10日目の新聞に韓国記者の投稿で

   ・ 外国人が自力で行ける場所に救援の手が届いていないのはなぜか?
   ・ 救える命も失われているのではないか?
   ・ マニュアル化されたシステムが、想定を超える被害の中で融通性を欠き初動の救援が遅れた。

 と指摘している。被災地が広域であったため救命活動の情報が埋もれてしまったものが多いとも思われる。

 実際には発災翌日の12日明け方から、航空機による「要救助者」の搬送が行われた地域もある。また「衛星無線電話
」の利用により、被災地から国の出先機関へ発信された情報が、医薬品の不足や支援物資の選定などに結びついたと
の報告もある。

 しかし、後者は発災から6日後の3月17日のことであり、衛星電話を持った東北地方整備局職員が緊急輸送路の確保
調査の為に現地に入りし、通信機器を提供した結果であった。このことから、被災後、直ちに要救助者情報を発信できた
地域もあれば、6日以上、被災地から「被災状況」を発信できなかった地域があることがわかる。

 東北地方大震災では孤立する地域において「固定電話、携帯電話」が不通の中、情報を発信することが困難な状況が
生じたが、被災者の携帯電話等からSNS (ソーシャルネットワークサービス)へ情報発信が行われた。

 情報格差や誤情報の問題は否めないが「twitter」 や「facebook」「mixi」 などSNS から被災地の「情報」を得たものも
あり、報道機関、政府も Twitter アカウントを開設し情報収集と発信を開始した。

 
ボランティアグループの努力により、これらの情報から「ボランティア活動」のための情報源や輸送路等のマッピングへ
活用された有益なものもある。SNS等の活用により「災害対策本部」や「ボランティアセンター」から必要な言語で情報発
発信が可能となり、海外からの観光客等へ「避難所や救援情報、帰宅支援等」の情報提供が可能であると思われる。

 SNSの中でも実名で登録されるfacebookは、グループ化によりある程度「クローズ」した連絡網構築が可能であること
から、県災害対策本部から方面本部、自治体、自主防、特定の個人等を結び付け、誤情報を排除する連絡手段として
有効と思われる。

 この連絡網が機能すれば、市町自治体の被災状況による情報の断絶を回避することが可能となり、「72時間以内」の
救命、捜索に有効な情報が集約できる他、損壊した輸送路等の状況把握にも役立つものと思われる。多くの市民が日頃
から使用している携帯電話、スマートフォン、PC等を有効な機器として位置づけ、陸上、衛星、防災等の無線通信以外の
連絡網としての検討が必要ではないだろうか。問題はインターネット回線や携帯電話中継基地局とその電源の確保であ
る。

 2004年に発生した「中越地震」以降、総務省傘下で「仮設携帯電話等基地局の設置」に係る飛行船等試験が行われ
ているが、まだ実用化に至ってはいない。伊豆半島は海浜のすぐそばに400m~600m前後の山々があり、防災ラジオ
の電波も入らない地域や、防災無線も聞き取れないところもある。

 携帯電話等「中継基地局」の減災対策や損壊した場合、復旧まで「無人飛行船」や「気球」等を利用した、仮設中継基
地局の設置も早急に検討をいただきたい。被災地となりうる地域での「自助・共助」協働のあり方と「公助」との連携が適
時適切に行えることが必要であり、自然発生的な「避難所」又は「自宅避難者」「障害者、幼、若、老者」への対応も視野
に入れた「連絡網」構築と通信手段の確保をしておかなければならない。




3「協働(コラボレーション)による自主防災組織の活性化をめざして」


 静岡県は「協働(コラボレーション)による自主防災組織の活性化をめざして」の中で「東海地震による大規模災害時
においては、一度に多数の負傷者が発生し、通常の医療行為が不可能となる、特に地域に設置される救護所では、自
主防災組織の協力なくして円滑な運営はできない」としている。

 このため「地域医療に係る医療機関・医師(医師会)は、発災時の医療現場の状況を想定し自主防災組織に対し、日
頃から応急救護やトリアージ(災害医療現場における負傷者の程度や治療の優先順位の判定を行うこと)の考え方につ
いての指導を行うことが求められる」と明記している。


 静岡県東部、伊豆半島海浜はレジャーダイビングの盛んなエリアでもあり、バイスタンダーとしてのトレーニングを受け
たダイビング指導員等が多数存在し、「溺れ」に対するAEDと心肺蘇生の継続したトレーニングを行っており、「初期救命」
等への対応が可能である。

 緊急時には「酸素」を使用できるよう器材を準備している多数の事業所があることから、これらの地域の自主防は消防
本部等との協力で、ダイビング関係者のバイスタンダーとしての存在を確認し、平時より連携を構築しておくことが有効で
はないだろうか。

 東北大震災では津波により多くの医療機関等が壊滅した。「救命」を考える場合、医療機関が損壊した場合への「支援
ネットワーク」の構築も必要であろう。

 但し、広域被災ではネットワークが機能しない地域が発生することも予想しておかなければならない。また、介護施設等
支援と要介護者、障碍者、妊婦、幼児、等への対応も自治体と自主防が中心となり、対応の「確認と検討」が必要である。

 「災害対策本部」「災害拠点病院」を軸に関係諸機関が参加して、二次、三次救命への搬送に、迅速に対応できる「連
絡網の構築」と「搬送のシミュレーション訓練」を行い、実効のみえる連携を構築することが課題としてあげられる。

 救命と要救助者捜索については、被災地から被災状況と傷病者情報が発信されれば、輸送路の損壊による孤立地域
へは「航空機」による要員投入と処置、「傷病者」の搬送が可能となるが、東北地方大震災に見られたように広域にわた
る甚大な被災が起きた場合、静岡県外、東海地方以外からの支援も必要となる。「全国都道府県における災害時等の
広域応援に関する協定」による、被災規模に応じた適切な支援活動が行われるよう、「確認と連携」が整い機能すること
を願う。



4 連絡網確立の手法検討とコマンド&コントロール~洋上、空からの支援~

「連絡網とスムーズな連携がなくては「救える命」を見つけられない」


 発災後各地の被災状況や避難所状況を直ちに把握することが必要であり、情報を整理し発信することによって「救助、
捜索、支援」等の効果的な活動につながる「指示命令系統」が機能する。「静岡県庁危機管理部県本部」は先に記した
「県内4ヶ所の方面本部」の連携で 情報をいかに収集、発信できるかが「コマンド・アンド・コントロール」の鍵となる。

 「災害対策本部」は「災害拠点病院」を軸に関係諸機関が参加し、「自衛隊、医療機関、MDAT、消防本部、海上保安部、
警察本部及び機動隊」等、対応混成部隊の検討が必要ではないだろうか。

 「混成部隊」と最小単位の「ユニット」の編成と派遣のシミュレーション等を通して、被災地へ投入した部隊あるいは
ユニットの支援として「航空機搬送、海上輸送、輸送路の確保、避難所支援」などの「調整と実施」を検討しておく必要と
なる。

 このためにも、「災害対策本部」の連絡網に、地域の「自主防(孤立集落)を中心とする個人(特定)」を含む相互受信の
「顔の見える連絡網」を構築することが必要である。( facebook等の活用検討 )。

 伊豆半島海浜の孤立地域も港湾等の被災が軽微で船舶の運用が可能であれば、漁協所属船、遊漁船、海運業社、
観光船事業者等の活用により、物資の輸送や「観光者の帰宅支援」をはじめとして「被災者の広域避難」等の支援する
ことが、机上では可能であると考えられる。

 しかし、東北地方大震災時の津波による港湾や船舶の被災状況を見ると、発災後「船舶による洋上からの支援」が直
ちに実施できるか疑問であり、静岡県庁危機管理部で調整構築を行っている「広域受援計画」「海上輸送体制の確保」
が、発災当日から機能するか否かを把握検討するために、各地の港湾毎に「できうる限り早い段階」で、「どこの港が利
用可能か?」正確な情報収集が必要であり、海上自衛隊・海上保安庁(下田海上保安部、清水海上保安部が中心)
・漁協所属船、遊漁船、海運業者、観光船事業者等との「連携」の明確化が望まれる。

 本稿の目的から外れるが、これらの確認と検討、準備は「日本国」全域で実施されるべきである。静岡県は消防防災
航空隊、警察航空隊、ドクターヘリなど多数の航空機を有しているほか、陸上自衛隊は4ヶ所に駐屯地を持ち、航空自
衛隊は3か所に基地を有している。

 海上保安庁の災害対応型巡視船と航空機等の支援を含めると、多数の航空機による現地視認調査が可能であり、
初動としての救命、捜索に空からの部隊やユニット、器材投入や傷病者の広域搬送が可能と思われる。

 また、輸送路が復旧するまでの間に孤立した地域へ「支援物資」等の空輸が可能である。

 空路と連絡網から、早急な被災実態の把握と「公助」の救助支援グループと救援物資の投入、陸路からの輸送路の確
保と捜索救助の投入と救援物資の搬送などが速やかに実施されることを望む。傷病者の広域搬送とともに観光者の帰
宅支援がスムーズに行われるよう連携の再確認と構築ができれば、効果の高い「自助・共助・公助」の連携に期待が持
てる。

 県民と関係諸機関が共通の目標を持ち、現状の確実な把握の上に立ってより良く「連携」が取れるよう改めて検討され
る事を切に願う。





5 参考資料1


1.    事故・災害時のMC ガイド 日本臨床シミュレーション機構企画   監訳 奥寺 敬  中山書店

   2. 「災害がほんとうに襲った時」中井久夫 みすず書房 電子データー無償配布版

                http://homepage2.nifty.com/jyuseiran/shin/

3.    「ふじのくに静岡県公式ホームページ」 http://www.pref.shizuoka.jp/

4.    「静岡県の東海地震対策」 地震対策資料No.243-2010

5.    SNS 【ソーシャルネットワーキングサービス】」 市民協働推進室

6.    「地域の SNS の目的と効果の関連性に関する分析」 

          電気通信大学大学院用法システム研究科 後藤省二、諏訪博彦、太田敏澄

   7.「米国の災害対策における IT の役割」    和田恭

   8.「防災戦略計画 京都大学防災研究所巨大災害研究センター」   牧 紀男

   9.「協働(コラボレーション)による自主防災組織の活性化をめざして」
                                      静岡県 地震対策資料No.190-2002

  10.「空からの広域防災ネットワーク」情報通信研究機構
                                      鈴木幹雄、三浦龍、辻宏之

  11.「安心・安全を支える高高度無人対空型ワイヤレスプラットフォームの実現を目指して」 
  
                                     立命館大学 連携講座2 2008年12月8日

  12.「効果的な災害対応のために、関係諸組織のネットワークの質を高めよう ~

      そのためのガイドライン(抜粋)」

             http://change-agent.jp/news/archives/000406.html

  13.東北地方太平洋沖地震について(速報)2011年3月25日

                                      防災科学研究所 理事長 岡田義光

  14.毎日新聞 平成23年3月12日~6月10日 に掲載された「東日本大震災」関連記事。

     およびテレビ番組によるニュースと震災に係る特集等。

  15.日経トレンディ6月号 facebook & twitter 特集

  16.Facebook をビジネスに使う本 熊坂仁美 ダイヤモンド社



 






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