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論文 18




 ワークショップ 「 ダイビング安全対策の実施方法に関する提言 」


                                宮下 高行   Cカード協議会会長







はじめに

 当協議会ではこれまでダイビングの安全性向上に寄与すべく、「第6回潜水医学講座小田原セミナー」、「第5回日本
高気圧環境医学会関東地方会総会 学術集会」の場で、いくつかの提言を行ってきた。

 今回開催された小田原セミナーのワークショップでは、これまで提言してきた内容を現実的実施可能な対策として検
証し、それぞれの現場で実行して行く方法論について提言を行った。

 この論文集では、抄録集に掲載した項目の説明を【背景と考え方】と題する部分に記載すると共に、ワークシ
ョップで出された他の意見に関する当協議会の考えを、最終の「4.」に記載した。



1.これまでに提言した主な項目を以下に示す。


  1−1 基本的考え方

      安全性向上のためには誰でもが実施可能な方法を、広く普及させる事
      ダイビングはオウンリスクの活動

  1−2 ダイバーに対して

      ストレスの無いダイビングを心がけ、怖いと感じたら潜らない。頑張らない。
      良いダイビング習慣を身につける
      初級レベル講習の内容を実際の現場で確実に実践する
      自立したダイバーとして活動する
      減圧症リスクを軽減するために

  1−3 ダイビングプロフェッショナルに対して

      ダイバーに対して「良いダイビング習慣」を実践させる
      環境の判断はチーム固有の要素から判断決定すべき
      ダイバーのストレス管理
      常に先を予測する
      ヒヤリ、ハットを無くす。

  1−4 問題として感じている事

      事故事例学習の困難さ
      中高年ダイバーの健康管理
      ダイブコンピューター
      ローカルルールのあり方
      ブランクダイバー
      オウンリスクダイビングとガイドの役割

  1−5 気になっている事
      「レクリエーションダイビング」と「テクニカルダイビング」を明確に区分けすべき。




2.安全対策の具体的実施に向けての方法提案


  これまで提言してきた安全対策を実践に移すために、その手順と方法について下記の提言を行った。


  手順1 実践的安全対策の作成

      : 当協議会が提言したものを「たたき台」として実態との整合をはかる。「継続的に実施可能」な安全対策を
        作成。必要が有れば実施優先順位をつける。
      : 安全対策作成に必要なメンバー構成

  【背景と考え方】

 当協議会がこれまで提言してきた内容が、はたして本当にダイビング現場で実行可能なものなのかを検証する必要
がある。もし実行可能なものであったとしても、多くのの困難や苦痛が伴うものであれば、そうした施策は長続きせずに
すたれてしまう。我々は指導機関の立場から、事故事例やトレーニング基準を背景に提言を行っているものであるが、
安全性向上のためには、それぞれのダイビング現場で現実の行動として取り入れられなければ何の意味もない。

 これまでの提言をアクションプランにするためには、当協議会だけでなくダイビングに係わる各々の立場からの意見
を得て検証を行い、必要に応じて修正をする必要がある。

 検証のためには、ダイビングサービス、ガイド、ユーザー、ダイビング医学関係者からの意見が特に重要であり、こう
したメンバーが参画した「安全対策アクションプラン作成ワーキンググループ」の設置が望まれる。

 また安全対策は多岐にわたるものであり、それら全てを同時に実行する事は不可能と思われる。従って容易に実行
可能なもの順に優先順位を付け、現実の行動として一歩でも踏み出すことが重要である。


  手順2 実施する安全対策の広報

       実施する対策は、関係各方面からの理解と協力が必要であり、そのための広報が重要。

  【背景と考え方】

 前項で述べたアクションプランが完成したら、実行に移す前にそのアクションプランの広報が必要である。
 安全対策とは、ダイビング実施に際して多少なりとも、ダイバーや事業者におっくうとか面倒さを伴うものであり、それ
を実行するにはダイビング事業者、ダイバーの方々等からの広範な理解と協力が欠かせない。


  手順3 核となるダイビング施設、組織、団体等の決定

      : 安全対策実施施設の決定と、その施設を支援するための広報
      : 後援、協力を頂ける、「団体」、「組織」、「企業」の決定。



  【背景と考え方】

 新たな安全対策を実施するにあたって、先導的な役割を担うダイビングサービスやダイビングガイドの方々が必要で
ある。前に述べたように新たな安全対策や施策は多少のおっくうさや面倒さを伴うものであり、それを実行することでビ
ジネス的なマイナスを生ずるようでは継続的な実施が困難となる。

 そうした事態を起こさぬようにするため、先導的な役割を担う方々をビジネス面でも支援する事が重要となる。支援
(後援、協力)する側としては団体、組織、企業などが考えられる。

 その支援方法として考えられるのは、新たな安全対策を現に実行しているサービスやガイドを、ユーザーに対して「安
全なダイビングサービス・ガイド」として積極的に広報する事であり、それによってこれらのサービスやガイドの元に、ユ
ーザーを誘致する事が必要である。

 一般的に新しいことを始める場合、大多数は「しばらく様子見」を決め込むものであり、「ビジネス的メリットもある。」と
感じてから動き出すものである。


  手順4 安全対策実施と実施施設の拡大

  【背景と考え方】

 先導的な役割を担うダイビングサービスやダイビングガイドの方々が新たな安全対策を実施し始めると同時に、新た
に協力いただける実施施設やガイドを拡大して行くことが必要であり、これには地道な努力が必要と思われる。


  手順5 フィートバックと修正

 実施中の安全対策に関し、問題点をフィートバックする仕組みと、フィートバックされた情報に基づく施策の改定が必
要。

  【背景と考え方】

 実施中の安全対策については、その「有効性」、実施にあたっての「困難度」などを常にフィートバックする必要があ
り、それらの情報によって現に実施している安全対策に修正を加えなければならない。「有効性」に疑問があるもの、ま
た実施する上で大きな「困難」や「苦痛」を伴うものは検証の上で修正をしたり、場合によっては実施項目から削除する
ことも必要である。また、フィートバックされた情報から追加実施項目が生まれることもある。




3.実行のための「組織と資金」


  : 「レクリエーションダイビングの安全対策」だけに絞った組織が必要
  : 組織がカバーする地域について
  : 事務局体制と人員
  : 立ち上げ、継続的運用に必要な資金額と調達方法の検討
  : Webとメールの活用により、ローコスト運営

  【背景と考え方】

 ここまで述べてきたことを実施するためには、「安全対策の実施」だけに目的を絞った組織が必要である。多くの目的
あるいは広範な目的を持った組織は往々にして「難しいことや困難なこと」から逃避し、さほど重要とは思われない「楽
なこと」に走り、最悪は「組織を維持することのみが目的」となってしまう事である。

「実行のために必要となる組織とは、はたしてどのようなものか?」を真剣に考えて組織は作られるべきである。

 また実行組織が地理的にどの範囲までをカバーする組織として出発するかも重要な点である。東伊豆だけか?西伊
豆も含めた伊豆半島全体か?日本全国か?ということである。広範な地域をカバーするには、それだけスタート段階か
ら困難さも増す。

 小さな地域で成功事例を作り、それを徐々に広げてゆくことが良い方法と思われる。

 活動を開始するにはそれなりの資金が必要となる。どの位の資金が必要かは、組織がどのような方法でどのような
活動をするかによって異なってくる。インターネットのWebとメールを最大限に活用することによってかなりローコストで
の運営が可能と思われる。

 どんな組織でも活動するために重要となるのは事務局体制である。事務局の機能が組織の機能に重大な影響を及
ぼす。有効な事務局体制の確立が最優先課題である。




4.ワークショップで提示された他からの意見について


ワークショップでは当協議会とは異なる立場からの意見も提示された。提示された意見の一部に関して、当協議会とし
ての考えを下記に記載した。


「テクニカルダイビングとレクリエーションダイビング」

 ワークショップで「テクニカルダイビングとレクリエーションダイビング」を明確に区分けすべきだと提言したが、これに
対して別の意見があった。当協議会が提言した趣旨をここで述べておきたい。

 人々が趣味でダイビングするためには、器材と、ある程度の知識と技術、安全のためのルールが必要であり、その
知識と技術、ルールの部分を指導機関が担っている。

 海には様々な環境があり、温暖なリゾート地域から厳寒の北極や南極、またいつも時化ている南米の先端ホーン岬
のような海域から、年間を通して穏やかな海域。深度も背の立つような深さから水深1,000mを優に超える海域まで
ある。

 これらの様々な環境に対応するには、それぞれ異なった器材や知識、技術、安全ルールが必要となる。

 ある環境を区切り、使用器材もある程度限定し、限定的な環境のもとで安全に潜るための知識と技術、ルールを定
めたのがレクリエーションダイビングである。

 一例として深度は40mまで、横移動無しに直接水面に出られる環境、使用器材は開放式スクーバ等々、こうした
様々な環境条件(範囲)を設定し、その条件の中で安全にダイビングするために必要となる知識と技術、安全ルールを
定めている。

 別のいい方をすれば、レクリエーションダイビングで定めている範囲を超えてダイビングするには、追加のトレーニン
グが必要であるということを意味している。

 最近テクニカルダイビングという言葉が広く知られるようになり、ダイバーの間でも興味を示す人たちが増えている。

 しかし何の追加トレーニングも受けずに、呼吸ガスも圧縮空気のままでレクリエーションの限度水深をはるかに超え
てダイビングを行い、死亡事故に至るという事例も発生した。

 こうした状況の中、再度「レクリエーションダイビングの範囲を超えるダイビングを行うには追加トレーニングが必要」
ということを強くアピールしたいと考えている。併せてレクリエーションダイビングの範囲についても更に広報が必要であ
ると考え、今回のワークショップにおいて「レクリエーションとテクニカルを区分けすべき」と提言したものである。

 また、レクリエーションダイビングで定めている必要な知識、技術、安全ルールは、使用器材の進化や事故事例など
によって常に改変がなされている。


「インストラクター認定に関する件」

 ワークショップでは、インストラクター認定のあり方についても疑問が提示された。

現在当協議会が採択しているインストラクター認定基準は「WRSTC = World Recreational Scuba Training Council」の
基準であり、この基準は世界のディファクト・スタンダードとなっているものである。

 また、WRSTC基準はEUヨーロッパ基準「CEN = Comite Europeen de Normalisation」とも整合している。

 つまり当協議会加盟社が使用しているインストラクター認定基準は国際的にも十分認知されているものである。

 基準は、採択しただけでは意味が無く、基準遵守状況を常に監視し、基準を逸脱するものに対しては必要に応じて矯
正する仕組みを持たなければならない。

 当協議会は、採択基準の遵守状況監視と逸脱したものに対する矯正機能を持つことを加盟組織の義務としており、
更にその機能を継続的に行使している事の証明を定期的に提出する事をも義務としている。

 当協議会採択基準は、ダイバーからインストラクター基準まで必要な各段階ごとにあり、これらも常に検証がなされ、
必要に応じて改変されている。

 関連する内容として、「Cカード取得の旅行商品」については危惧を感じている。ダイビングの安全を担うダイビングサ
ービスやインストラクターが、一部地域で旅行業界の下請け化し、旅行業者の一部は「より安く、より短い日数」でCカー
ドを発行するよう求める傾向がある。

ダイビング事業者達が旅行業界と対等な立場で業務提携出来るような環境が必要である。

                                                          以 上






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