Medical Information Network for Divers Education and Research



論文 19




 ワークショップ 「 環境とダイバーの技術的な問題点 」

            レジャー潜水と作業


                                 高橋 実     潜水団体スリーアイ







「レジャーと作業」       

 水中に潜るというダイビングを、何のために潜るのかとの観点から見たら「レジャーと作業」というくくり方も有ります。
しかし、潜水そのものを見たときには次のような分類にもなります。



 潜水の分類とその特徴

 ・ 潜水器の種類による分類
 ・ 潜水方式による分類
 ・ 呼吸ガスによる分類










図 潜水器の種類と分類   潜水士テキスト(厚生労働省安全衛生部労働衛生課編)より



 作業のためのダイビングは、空気圧縮機(コンプレッサー等)若しくは手押しポンプにより送気して行う方式と潜水者
が携行するボンベからの給気を受けて行う方式に大別できます。

 送気式潜水での潜水者は船上等からホースを通して呼吸気が送気されるので長時間の潜水が可能となります。そし
て作業を行う場は海底(水底)が主になります。それに反し、自給気式潜水は持ち込めるガス量に限りがあることで、潜
水時間の縛りは厳しくなり、短くなってしまいますが、その代わりに行動の自由度や機動性は高まります。

 それ故、活動の場は海中(水中)空間にまで広がります。

 送気式潜水及び自給気式潜水とも、現在作業に使われている呼吸ガスのほとんどは空気(エアー)であり、空気ゆえ
の酸素分圧、窒素分圧の制約で比較的浅い水深での潜水活動となっています。今回は、より深い水深や特殊な潜水
時のミックスガス等を用いたテクニカルダイビングは次のテーマとして、ここでは割愛します。



 作業ダイビングの実際

 作業ダイビングに携わるダイバーには厚生労働省認可の「潜水士免許」の取得が義務付けられています。実技試験
はありませんが、この免許を所持していない人が労働災害にあっても労災保険は適用されず、かつ業務をさせた雇用
者側は罰せられてしまいます。

 潜水士が守らなくてはいけない(潜水士を守るための)「高気圧安全衛生規則」の中では「さがり綱」を備え、潜降・浮
上時にこれを潜水作業者に使用させなければならないこと、それに潜水作業者二人ごとに一人以上の連絡員を置くな
ど、ダイバーと船上の連絡を密にしたバックアップ体制をとることが定めています。

 労働安全の法や規則ではその他に、六ヶ月毎の定期健康診断、潜水前の設備等の点検、ダイバーの携行物、潜水
時間、浮上速度など実務に関する約束事や書式についても定められていて、安全の為のシステムとして整備されてい
るように思われます。

 これは、作業ダイビングが視界の利かない等々の劣悪な環境に潜る事を想定しているからで、基本的には美しい水
中を志向するレジャーダイビングの安全対策とは異なるように見えます。しかし、より安全なダイビングのために取り入
れたいこともたくさん有ります。
 


 減圧と無減圧潜水

 送気式を除いた、自給気式による作業や調査ダイビングとレジャーのためのダイビングには似通った点がたくさんあ
ります。それは持ち込める空気量に限りがあるので当然のことかもしれません。

 減圧症予防のための、浮上スケジュールはレジャーダイビングでは無減圧潜水が基本になっていますが、これは自
給気式による作業や調査ダイビングにもあてはまります。

 しかし、定められたさがり綱の設置と平行して、予備の減圧用タンクの垂下(設置)は潜水計画書作成時から検討さ
れ、実施されるのが作業ダイビングです。

 無減圧潜水というのは浮上時に減圧の為の停止時間の無い(短い)潜水を指しますが、的を射た表現とは言い難いと
感じてしまいます。

 浮上すなわち減圧であるから、減圧の無いダイビングは存在しないので、浮上時のみならず減圧についてもっと強く
意識する必要があります。

 近年、浮上時には「安全の為の停止」が定着してきていますが、それ以上に、浮上スピードのコントロールやタンクの
残気量に十分な予備量を持つことまでを配慮した減圧(浮上)スケジュールを計画し、きちんとした減圧停止を実行すべ
きだと私は考えます。



 レジャーダイビングの実際

 レジャーダイビングでは器材の調達、手配、潜水環境の調査等をショップや現地のサービスに委託することが多く、
現地における実ダイブでもガイドやインストラクター任せになり勝ちです。

 ダイバー自身はダイビングの流れをつかんではいるが、あいまいに理解していることも多く、無意識のうちに自由度を
楽しむことを優先させ、安全がおろそかになりがちです。

 その上、ボートダイビングでは船長イコールガイドやインストラクター、潜っている時の船上連絡員の役割をするテン
ダー不在はもちろん、船上に誰もいないことさえあり、安全の為のバックアップ体制は人任せで脆弱の場合を多く見か
けます。



 潜水計画と行動可能範囲の規定

 作業・調査ダイビングでは、実作業における作業手順を繰り返し確認し、計画以外の作業は行なわない、ということが
安全の為に必要との認識があります。

 レジャーダイビング時に作業・調査ダイビングと同じ方法をとれないのが現実ではあります。

 だからこそ、ダイビングの場で起きる出来事に的確に対応し、より安全なダイビングを楽しむには、より確かなバック
アップ体制を整備することと併行して、ダイビングを計画した段階から潜水計画書の作成、準備、手配、器材のチェッ
ク、潜水環境の情報収集や確認、体調の維持、等々を行うなかでダイビング活動をイメージし、オウンリスク(の考え)
でダイビング中の自らの行動可能範囲を自ら規定することです。

 行動可能範囲は自分の能力目一杯に規定するのではなく、余裕を持ったものでなくてはなりません。

 そして、その範囲をもっと拡大しようとするならばスキルアップのトレーニングなどで準備を重ね、成果確認で自信を
持った上でなければなりません。



 まとめ

 ・ 減圧の無いダイビングはない。潜降(加圧)と浮上(減圧)を強く意識し、十分な減圧対策を。

 ・ バックアップ体制の整備と自らの行動可能範囲を規定した上で、より安全なダイビングを楽しもう。

 ・ ダイビングは誰でも出来ますが、誰もがどんなダイビングでも出来るわけではありません。
   そして、安全に対する姿勢は潜水目的によって変わってはならないのです。
  
                                                               以 上






7th 2006  総合目次  Top Page

20