Medical Information Network for Divers Education and Research



論文 23




ワークショップ 「 ダイビングエリアの緊急時体制 」 


                            西村 周 伊東市ダイバーズ協議会 潜水医学情報ネットワーク事務局







はじめに

 ダイビング活動中に発生すると思われるトラブル=事故は、「呼吸する空気のない」また「周囲圧の変化の大きい高
圧環境」である事から、呼吸できない状態に陥りやすく、死亡、また圧力変化の影響による特殊な障害での後遺症を残
す確率が、非常に高い事が明らかとなっています。

 そこで、不特定多数のダイバーが利用するダイビングエリアで、対策をしておかなければならないと思われる事項に
ついてご報告いたします。

 ダイバーは、知識の取得とトレーニングによって、「行ってはいけない事」「行っても良い事」を学びます。

 実際の「海」「湖」「河川」その他のダイビングを行う場所で、トラブルが発生した場合、対処の方法・手順を明らかにし
ておく事が重要です。

 ダイビングを行うエリアを提供する場所「ダイビングサービス等」では、利用者のトラブル・事故に対処できるように、
機器の整備と使用するための知識・トレーニングを行っていなければなりません。

 また、バイスタンダーとしての初期対処のほか、地域の消防本部との連携を持ち、一般救急だけでなく、特殊な障害
を発症している事故者に対して、その治療ができる施設を持つ医療機関との連携を作り、速やかな搬送と治療が行わ
れるように体制を整えておく必要があります。



トラブルの発生への対応  バイスタンダーとしての知識とトレーニング

 不特定多数のダイバーが利用するダイビングエリアでは、それぞれのポイントを営業する「ダイビングサービス」等
が、従業員に対し、事故発生時に対応するために「バイスタンダー」に必要な「知識」を取得させ、「トレーニング」を実
施しておく責任があります。

 特に心肺蘇生法に合わせて普及しつつある「AED」の取り扱い。また、高気圧障害の発生時に特に有効な「酸素の供
給」についてもトレーニングを行う必要があります。

 AEDの使用方法を含む心配蘇生法は、各地の消防本部にて開催されている一般救命講習会での受講が可能です。

 酸素供給法に関しては「DAN JAPAN」が開催する、「酸素プロバイダーインストラクタートレーナー」の資格を持つ指
導員が、各エリア内のダイビングショップの従業員に対して、「酸素プロバイダーインストラクター」の育成を積極的に行
い、教育を受けた酸素プロバイダーインストラクターが「酸素プロバイダーを育成する事により、酸素を供給できる員数
を増やす事が必要です。

 そして、ダイビングポイントでは「AED」と「酸素供給キット」の配備をしなければならないでしょう。このような対策は、
軽微なトラブルから重大な事故に対して非常に有効であると確信しています。

 しかし単に器材の配備や個人々の知識・技術の向上だけでは、実際のトラブル・事故に充分に対処できるとは限りま
せん。

 重大な事故の場合はもちろんの事、軽微と思われるトラブルであっても、肺へ海水等を吸引していた場合は医師に診
断と処置をしてもらう、また高気圧障害の発症が疑われる場合、治療機関への速やかな搬送と再圧治療が必要になり
ます。

 そこで救急車を擁する消防本部等との連携が重要となります。この連携を強化するためには、ダイビングエリアで事
故を想定した「緊急対処訓練」が必要でしょう。

 緊急対処訓練を行うときに、消防本部(海上保安庁・警察署)にオブザーバーとして参加してもらい、訓練を視察した
結果を「講評」してもらう事によって、訓練に参加したダイバーの意識・手順の統一を図る事が可能です。

 これを繰り返す事によって、トラブルや事故発生時に対応できるダイバーの員数が確保でき、対処できる員数が多く
なる事によって、速やかな救助と初期処置が可能となります。

 また、対処要員が多くいれば、現場での情報の収集にも時間をさくことができ、救急隊や医事関係者に、事故発生時
の状況を詳しく伝えることも可能となります。



関係各署との連携

 先に記しました緊急対処訓練へ、消防本部(海上保安庁・警察署)が参加いただくことにより、ダイビング事故の特殊
性を理解してもらうことが可能となります。

 これにより、高気圧障害を発症している事故者を、消防本部か管轄する地域外の医療機関へ運ぶ連携を構築する
事が可能となります。

 これには各消防本部が管轄する地域において消防本部、医療機関との協力が必要になりますが、ダイビングエリア
のダイビング事業者自体が自発的に行動しなければ、緊急時の連携は作れません。

 それぞれのエリアで協議会等の組織を作り、地域一体で自助努力を行っていただきたいと考えます。

 事故者の様態により、消防本部管轄地域内に救急を受け入れる病院等があれ搬送に問題がありません。

 しかし3次救命が必要な場合、管轄地域外あるいは都府県外への搬送が必要になることもありますし、全国のダイビ
ングエリアには、高気圧障害の治療施設を持つ医療機関が近隣になく、かなり遠くの医療機関へ搬送しなければなら
ないところがあると思います。

 「一番近い、医療機関は?」
 「現在、治療が可能か?」
 「一時的に使用できない医療機関に変わる治療施設は?」など、

速やかな高気圧障害に対する治療がどうすれば可能かを検討しなければなりません。

 この場合、各地区の消防本部と該当する医療機関だけでなく、海上保安庁や海上自衛隊、消防防災航空隊の協力
を得なければならないケースも考えられます。

 しかし、それぞれのダイビングエリアは大きな問題を少しずつでも解決し、最終的に事故者に対し適切な初期処置と
情報収集、有効な緊急時の搬送を含む、連携システムを作る事が必要でしょう。

この作業には、大きくは日本高気圧環境医学会等の協力が必要と考えています。



まとめ

全国のダイビングエリアで、トラブルや事故が発生した場合の対策として

 1 ダイビングポイントの事業者は、従業員に対し「AED の取り扱いを含む心肺蘇生法」「酸素供給法」のトレーニン 
   グを定期的に実施し、その知識と技術を取得させる。

 2 ダイビングエリアでは、高気圧障害の治療ができる医療施設を確認し、事故者の受入れについて依頼を行うと同
   時に、消防本部やその他の機関との搬送にかかわる協議を行い、緊急時の連絡網の整備と搬送システムを整備
   する事が望まれる。 

 3 ダイビングエリアでは関係各署との連携を強化するために、エリアを管轄する消防本部・海上保安庁・警察署等と
   連携し、事故対処訓練を実施する事が望ましい。







7th 2006  総合目次  Top Page


24