Medical Information Network for Divers Education and Research DAN JAPAN の酸素供給法と AED 講習について
舩木 重雄 * 野澤 徹 *
* 財団法人日本海洋レジャー安全・振興協会 DAN JAPAN
要旨
DAN JAPAN
は、財団法人日本海洋レジャー安全・振興協会が運営する各種マリン・レジャーの安全のための事業
のひとつで、その活動の中に、事故ダイバーへの緊急対応として酸素を供給するトレーニングがある。DAN
JAPAN で
この講習を開始してから9年を経過するが、次第に我が国のダイビング業界でもその有効性が広く認識されるようにな
った。また、昨年から、自動体外式除細動器( AED
)に関するプログラムも開発し、ダイビングを中心として普及を図る
緒についたところである。現在実施されているこの二つのトレーニングプログラムを紹介する。
キーワード : DAN 酸素 AED
(自動体外式除細動器) 応急手当 減圧障害
DAN JAPAN プログラム
現在、DAN JAPAN がダイバー向けに行っているトレーニングプログラムは、「酸素供給法」と「
AED (自動式体外式
除細動器)」である。
このプログラムの特徴を簡潔に示すと、
1) ダイバーのためのプログラムであること
2) 緊急時に傷病者に応急手当を行う知識と実技を身につけること
3) 救急隊へ引き継ぐまで、医療施設に搬送するまでの応急処置であること
4) ダイバーの安全意識を高めること
5) ダイビングの生理学に関するより高い知識を得ること
6) AHA 2005ガイドラインに準拠していること
などとなっている。
ダイビング事故発生の現状を見据えた場合、こうした応急処置の知識・技術を習得することによって、ダイビングに付
随する危険を知り、事前にそうした危険を避けるようなダイビング計画を立て、それを実施する方向性をを身につける
ことができる。また、万が一、緊急事態に遭遇した場合にも適切な対応によって、被害を最小限に抑えることができると
考えられる。
その点からも、DAN
のプログラムは実際のダイビング現場に見合った現実的な「シナリオベース」で実習をおこなうも
のになっており、全体的には、国際 DAN
(アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、南アフリカ)のプログラムとの整合性を
備えている。
酸素供給法
ダイビングでの緊急時に、事故者に酸素を供給するための知識と技術を身につけるためのプログラムである。ダイビ
ングは、水中という本来ヒトが生存できない環境で活動する行為である。そのために潜水時間、推進、浮上方法などに
さまざまな制約があり、環境から受ける影響にも個人差がある。
ダイビングでの大きな生理的問題に、減圧障害(減圧症と動脈ガス塞栓: AGE
)があり、この疾病に対する応急処置
として、「できるだけ高濃度の酸素」を供給することがよいとされている。また、ダイビングは水中での活動であることか
ら、溺水につながるおそれが高く、この場合も緊急に酸素を供給することが欠かせない。
近年、レジャーダイビングにおいて、「より深く、より長く」ダイビングを楽しむために空気以外のガスを使うダイビン
グ、いわゆるテクニカルダイビングが我が国でも導入されてきているが、酸素に関するより高度な知識を得るために
も、 DAN の酸素講習は役に立つものと思われる。
1) 酸素講習の構成
講習は、次のような流れによって行われる。DAN JAPAN
が直接トレーニングを行っているのは、現状では DAN 酸
素インストラクタートレーナーだけである。DAN JAPAN に認定・登録された団体から推薦された個人が DAN JAPAN 主催の酸素トレーナーコースを受講し、トレーナーとして認定され、そのトレーナーがダイビングインストラクターに対し て「 DAN 酸素インストラクター」コースを実施し、酸素インストラクターを認定する。次にこの酸素インストラクターが、ダ イバーに対して酸素プロバイダーを認定する。
2) 内容
酸素プロバイダー講習では、以下の項目を学ぶ。
1 生理学
2 潜水障害(障害)
3 酸素
4 酸素器材
5 酸素供給の実際
6 修了テスト
ダイビングに関する生理学、潜水障害(障害)、酸素、酸素器材については、ビデオ教材があり、これを使えば必要な
内容がカバーされる構成になっている。最も時間をかける部分は、酸素供給の実技で、ここでは新しい器材の使い方
を身につけた上で、やさしい技術から次第に難しい技術へとステップ・バイ・ステップで学ぶ。そして、実際の潜水事故
を想定したシナリオに基づいて、そのパターン毎にトレーニングを繰り返すようになっている。
インストラクターは、酸素トレーナーから講習を受けることになるが、内容的には酸素プロバイダー講習と同じである。
もちろん、インストラクターとして持っているべきさらに高度な知識が要求されるが、こうした知識は各団体のダイビング
インストラクター講習でも行われるので、受講者には無理のないものになっているはずである。もっとも重要なのは、
「いかに酸素プロバイダーコースを教えるか」と「プロバイダーコース実施に当たっての基準や手続き」についてである。
最も力点を置いているのが、「実際の教え方」に関するもので、この部分は、受講生役とインストラクター役に分かれ
て、徹底的にトレーニングを行う構造になっている。また、酸素プロバイダーとは別の酸素インストラクターテストに合格
しなければならない。
酸素インストラクタートレーナー講習が酸素インストラクター講習と大きく異なる点は、潜水医学と法律の専門家によ
る講義が加わることである。この部分は、我が国の実情を考慮して国際 DAN
のプログラムとはやや違った構成になっ
ている。もちろん、酸素インストラクタートレーナーとして、教育方法のトレーニングについても十分な時間をとる構成で
ある。また、終了テストは、一部記述式を取り入れたものになっている。
AED (自動体外式除細動器)
AED
は、我が国でも最近になって、厚生労働省のガイドラインに準拠したさまざまなトレーニングプログラムがある。
DAN JAPAN では、厚生労働省のガイドラインはもとより、国際 DAN および AHA
2005ガイドラインに準拠する形で
「ダイバーのための AED
」プログラムを昨年独自に開発・導入した。このプログラムはダイバーを対象にしたものであ
るが、一般でも使えるのはもちろんである。 1) AED 講習の構成
AED トレーニングは、酸素インストラクタートレーナーに AED
トレーニングを行い、酸素インストラクターへと進むよう
になっている。インストラクター以上に対しては、酸素インストラクター以上のステータスを有していることが条件になって いる。AED プロバイダーに関しては、酸素プロバイダーを持っていることは条件になっていないが、CPR (心肺蘇生法) のトレーニングを受けていることが条件になる。特に、AHA 2005ガイドラインでは、AED を行う際には「絶え間ない胸 部圧迫が必要」とされている。 2) 内容
CPR を受講前の条件としたことで、DAN JAPAN の AED
講習の内容は、いくらかスリム化してあるが、プログラムの
内容には CPR の復習が含まれている。 学習内容は、次のようになっている。
1 心臓突然死(突発性心停止)
2 心室細動
3 AED を使った実技(シナリオベース)
4 酸素供給のオプション
5 修了テスト
AED
インストラクターなどのトレーニングには、酸素講習同様に教え方の徹底したトレーニングおよび基準や手続き
の解説、また、AED ぷろばいだーとは別の修了テストが用意されている。 3) 特徴
DAN JAPAN の AED
(自動体外式除細動器)講習の特徴は、「ダイバーのために」を念頭に、実際のダイビング環境
下での使用に合ったプログラムになっていることである。 具体的には、
1 水辺での注意を含む
2 酸素供給との関連を含む
3 ボート内などの振動がある場合の注意事項などを含む
4 シナリオベースの実践的実技講習が含まれる
などである。
まとめ
ダイビングは楽しい活動であるが、水中での活動で、器材への依存度が高いことを考えると、そのことによる固有の
危険が常に潜在する。そのため、ダイバー一人ひとりの安全への認識と技術が高くなることが事故率の低下や救命率 の向上には欠かせない。
その意味において、DAN JAPAN の酸素プログラムと AED
プログラムは、ダイビングの安全に大きく寄与できるもの
と確信している。 また、最近の DAN JAPAN
の調査では、年々中高年ダイバーが増加し、心臓疾患などによる突発的な事故も発生し
ていることから、すべてのダイビングサイトに酸素とともに AED も必ず備え置くことが望まれる。 おわりに、DAN JAPAN では、さらにダイビングの安全を高めるために、国際 DAN
との連携を基に、あらたなプログ
ラムの開発を検討している。例えば、「野外神経検査」「危険な生物」などがある。DAN JAPAN の今後に注目していた だきたい。 28 |