Medical Information Network for Divers Education and Research 救助 ・ 潜水隊員が行うマネージメント
毛利 元彦 海洋科学技術センター海洋生態・環境研究部長
1. はじめに
海水浴、素潜り、シュノーケリング、磯釣り、サーフィン、ボートセーリング、スキューバダイビング等の海洋における海
浜事故は突発的に発生し、死に繋がることが少なくない。一方、この海浜事故は 800
例ぐらい発生し、救助活動が行
われている。 1)
そこで、救助 ・ 潜水に伴う事故現場で行う活動について概略する。
2. 潜水業務従事者について 2)
潜水事故に伴い、潜水救助などの潜水業務に従事するものには、潜水業務に直接携わる者と潜水業務を間接的に
支援する者があり、潜水業務に直接携わる者を総称して、潜水業務従事者と呼び、このグループを潜水チームという
こともある。
潜水従事者を大別すると潜水業務責任者、潜水作業者 ( ダイバー ) 及びその他の支援者 ( テンダー )
で各々の
業務を分担する。
欧米の潜水規則では、事業主が潜水業務責任者 ( Diving Supervisor )
を指名することが規定されているが、
日本の高気圧作業安全衛生規則では、規定されていない。
この潜水業務責任者は、作業現場において潜水業務を直接指揮監督する者であって、潜水業務従事者全員の安全
及び健康、潜水業務の計画、実施について責任を負う必要があり、救助 ・ 潜水活動においてこの
Diving Supervisor の指揮の元に実施されることが必要不可欠である。
アメリカ海軍並びに、商業潜水におけるスキューバ潜水に伴う配員について表 1 に示す如く、
Diving Supervisor
の指揮のもとに実施している。表 2 の如く潮流 ・
波高などの気象変動にも注意を向け、二重遭難の防止をも考えるこ
とが必要不可欠である。
( US Navy による
)
3. 減圧症に対する現場での対応
1) 一般的な救命救急処置
(T) 意識及び呼吸の確認の後、直ちに蘇生 A B C の手順に従って対応する。
(U) 水平仰臥位 ( 意識障害時 )
以前は、ヘッドダウンポジションが推奨されていたが脳圧亢進を招く可能性も指摘された為可能性も指摘
されたために、現在この体位が支持されている。
(V) 酸素投与 ( リザーバー付酸素マスク10リットル/min以上 )
(イ) 組織の低酸素状態の改善
(ロ) 不活性ガスの消失を速める効果
(W) 水分の補給と補液
(イ) 潜水中に水分喪失があるため
(ロ) 血管外への血漿成分の漏出の他に二次的変化として、血液が濃縮され、循環不全をきたすことがあ
るため
(ハ) U型減圧症、動脈ガス塞栓症の時には補液が必要である
a. ラクテック、リンゲル液あるいは生理食塩水などの等張輸液が必要である
b. 低張輸液は、中枢神経系の浮腫を悪化させる可能性があるので好ましくない
c.
糖質のみ、または多く含む補液は、糖の代謝物が中枢神経系の浮腫を増強するので避けるべきで
ある
(ニ) T型減圧症では、 1 〜 2 リットルのスポーツドリンク、 100
%ジュースなどを経口摂取させる
(X)排尿の確認
a. 排尿困難であれば、尿道バルーンカテーテルの挿入
b. バルーンを膨らますのに液体を用いる
c. 補液の適正を確認するために、尿量は単位時間当たり 0.5 ml/kg 以上あること
2) 潜水事故の状況などの情報の収集
3) 再圧医療機関への連絡 ・ 搬送
(T) 潜水障害を疑ったなら、様子見ることなしに直ちに連絡を取り、その指示に従うこと
(U) 再圧治療が必要か否かを判断する
(V) 再圧治療を必要と判断した場合、傷病者の緊急度に応じて、その搬送方法ならびに医療機関を検討決
定する
これらの潜水事故の現場での対応については、第一回小田原セミナーで鈴木信哉先生 3) 山本五十年先生 4)
らが
詳しく発表されており参照されたい。
4. まとめ
現在の高気圧作業安全衛生規則には、潜水チームを統括する Diving Supervisor
の規定がなされていない
が、潜水事故に伴う潜水業務は 1 つのシステムとして実施されることが必要不可欠である。そのために、潜水事故に
対応できる Diving Supervisor の養成が急務と考えている。
参考文献
1) 平成11年における海洋レジャーに伴う海浜事故 : 日本海洋レジャー安全振興協会 1999.3
2) 潜水作業 ( その3−1 ) : 海洋科学技術センター51 1988
3) 鈴木信哉、堂本英治、和田幸次郎、赤木淳、 潜水病の発症メカニズムと治療方針
: 関東地区 高気圧環境医学懇話会誌 2 (2)
4) 山本五十年 潜水病に対する現場活動から治療まで : 関東地区高気圧環境医学懇話会誌2 (2)
76-82, 1999
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